[コメント] サマーウォーズ(2009/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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はっきり言って、ナツキがワビスケに気があるんだという素振りを見せられただけで私の胸はぎゅっと鷲づかみにされてしまい、ほとほと切なくなってしまうのだから、細田監督の描く思春期の恋愛像はまったくもってツボなのである。もっと言えば、好きな女のコが自分にとって手に負えない男に気を惹かれているという状況は、それだけで少年にとっての“世界の終わり”を意味するものだと、青春映画を眺めるとき、私はそう思う。
だから映画が描こうとする本来の意味での“世界の終わり”には、高校生男子の恋心に匹敵するだけの切実さとリアリティを求めてしまう。東大卒のアウトローな大人から憧れの先輩の心を奪い取るより、もっと切実な戦いをこの映画は提示していただろうか。そう考えると、「アカウント乗っ取られたら怖いよね」なんてそんなお気楽な危機意識で描かれた「ウォーズ」がたいへんに物足りないものに感じられた。
例の人工知能が乗っ取ったもの(乗っ取れるもの)と乗っ取っていないもの(乗っ取れないもの)の線引きが非常に曖昧なのだ。主人公(じゃなくて正確にはほかの誰か55人)が解読したパスワードによって人工知能はシステムに介入した。それによって人工知能はアカウントを次々にハックして、交通を麻痺させ、衛星をコントロール下においた。そしてOZ全体を格闘空間に変えた。だけど、そのゲームのシステムはどうやらハックされていないらしく、格闘そのものは正常に行われる。カジノのシステムも正常に動くから、ナツキは花札で勝てる。
格闘と花札は、OZのルール下で平等に行われている。つまり、OZのシステムそのものは死んでない。死んでないのに、管理者はラブマシーンを放置している。ジョンとヨーコもどうやらいつも通り動いているらしい。
映画の冒頭で主人公とその友人は「OZの末端の末端で管理のバイトをしている」と言った。ならば、その根幹の根幹という存在があるはずだ。その根幹の根幹たるシステム管理者の存在が映画からスポイルされているために、何がどう危なくなっているのかがわからないんだ。だから、OZのセキュリティ能力もラブマシーンのハッキング能力もよくわからない。ただ漠然と「ネットって怖い」というイメージビジュアルだけが流されている。
結果、実感として世界が終わる感じがしない。
全年齢向けのアニメーション映画でどこまで描くべきかという問題はあるにしても、この映画に描かれるネット社会の設定はすごくいい加減だ。少なくとも私にとって、この「ウォーズ」は、高校生男子の恋心に匹敵するシリアスさではなかった。
細田監督はきっと「ネットで世界滅亡」なんてことが起こる可能性を、まったく信じていないんだと思う。バーチャルとリアルの関連性を描いて、この作品の危機意識は10年前の『マトリックス』にさえ遠く、遠く及ばない。作家が信じていないものを提示されて、観客である私はどんな顔して踊ればいいのか。
要するに、なんかよくわかんない“世界の終わり”なんてほっといて、もっともっとあの夏空の下で恋だけしていたかったんだ。あじさいの浴衣の彼女と花火大会とかさ!
▼余談
クライマックスで、衛星が陣内家に落ちてくることがわかって、その進路を必死で変えようとするシーンがあるけど、あれ危ないよね。ぎりぎりで進路を変えて上田の市街地に落ちたら大変なことになるんじゃないかと。だったら、陣内家の広大な敷地に落としておいて、自分らが避難しておくのが良策なのじゃないかしら。親戚には自衛隊の方もおられたようですが……と、少し不安になりました。
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