[コメント] 博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか(1964/英)
映画を見終った人むけのレビューです。
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天才キューブリックがブラックな笑いと共に世に送り出した名作。内容は実に濃く、平和に対する強烈なメッセージ性をも包含している。
この作品が公開された当時はまさに東西冷戦華やかしかりし日で、東西陣営とも競うように核爆弾を作りあっていた時代なのだが、その中にあってこのような作品を作り上げてしまったキューブリックの力量にはただただ感心するばかり。
テーマと言い構成と言い凄いのだが、ここではセラーズが無茶苦茶にはまっていた。気弱な大統領、冷静ながら災難に巻き込まれ、混乱する英国大佐、そして強烈な個性を持つストレンジラヴ博士と、異なる三つの役柄をキチンと演じ分けている(当初は爆撃機の機長も務める予定だったらしい。これが実現していれば…)。「顔のない役者」の面目躍如たるところ。特にストレンジラヴ博士の個性は凄まじく、あのどっか精神が飛んでしまったような話しぶりとか、奇矯な行動とか、つい真似をしたくなる。「ドゥ、ドゥ、ドゥームズデイ・プロジェクト」とかのしゃべり方とか、勝手に動こうとする片手をばんばん叩く仕草とか、なんと言っても「総統、歩けます!」とか…(学校の教室で映画の話をしていてこれを真似したら、回り中が引いた)。不謹慎ながら、車椅子の天才物理学者ホーキング博士を見る度に「あ、ストレンジラヴ博士」と思ってしまうのを止めることが出来ない。
ホワイトハウスの中でのソ連大使の行動も自国の国粋主義そのまんま。そんな彼らをまとめようとしてまとめきれない気弱な大統領役もセラーズはよくこなしていた。
話はホワイトハウス、空軍基地、そして一気の爆撃機の機内と言う三つの場所で同時進行し、それぞれが混乱しているのだが、その中でも笑いを取ることは忘れないし(真面目になればなるほどお笑いになる場合があることをここで知った)、しかもこれだけの混乱の中、何とか事態が沈静化してほっとした所で本当に核爆弾が落っこちてしまうと言うオチが強烈。全てが滅びゆかんと言うときに隠しカメラでホワイトハウス内部のあちこちを撮りまくるソ連大使の嬉しそうな顔も良い。
そして最後の人を食った歌。これで間違いなくキューブリックは天才であることを認めた。映画の中に様々な狂気を表現し、それをきっちりと笑いに徹した作品に仕上げた監督に惜しみない拍手を送りたい。
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