[コメント] ファースト・マン(2019/米)
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なので「アポロ13」のように叙事的に描くのではなく、人類初を経験することになった一人の男の「特殊性」を極力排し、一般に共感できるような内面に焦点をあてて描くという切り口になったのだろうが、いい狙いだったと思う。
宇宙飛行士が職業という人物の特殊性を排するために、主人公が宇宙飛行士という職業をこなしている箇所は主観ショットを多用することで、彼が属する組織(背景)があまり表に出ないようにしていて、家族とともにいる時間の描写はホームビデオ風な画面設計になる。この2つの視点画面を自然につないでいるのに大きく寄与しているのが「手ぶれカメラ」なような気がする。その白眉は出立の日。家の玄関のドアを開けるところと、サターンの搭乗口のハッチを閉めるところのDOOR TO DOORの画面の連続。サラリーマンが出張で夜遅く妻の見送りだけで家を出て、新幹線か飛行機にでも乗るような、主人公の特殊な職業性を一般の日常感覚に錯覚させる見事なアイデアだった。
順調なアポロ11のミッションをクライマックスで盛り上げるための仕掛けは、ズバリ「宇宙船の小窓の風景」だろう。冒頭のマーキュリー計画とジェミニ計画の二つでまったく同じ主観ショットの画面を用意。激しい振動を主に窓の揺れのショットで表現し、徹底的に観客に擦り込んでおいて、アポロの月着陸船の箇所で、結果的には順調に着陸させられているのに、その 窓の振動で観客の不安を最大限効果的に煽るという、このアイデアも上手いよなあ。
月面の無音と無動の描写。人類があくなきイメージを抱いてきた現場の、この喩えようのない「なんだろうこれは」感が凄い。空気も水もない死の世界であることは、学習によって知っていて、事実そのとおりだったのだが、実際ってこうか!みたいな感覚を味わえた。こういうのは映画の醍醐味だよなあ。写真で有名な最初の一歩のショットの次の二歩目のショットとか、オルドリン飛行士の月面ホッピングを遠くに見やるショット、遠景で見せるすでにたてられた星条旗とか、みんなが知っている映像のとりこみも気が利いているこしゃくな画面ばかり。
この作品全体の完成イメージを事前に作って撮影プランをたてた監督の想像力が凄いと思った。それなくしてこの作品は成立していなかったのではないか? 『ラ・ラ・ランド』とはまったく異なる演出方法を行ったチャゼル監督は才能ある人なんだろうな。
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