[コメント] 崖の上のポニョ(2008/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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あのねぇ、怖いんだよ。終始怖い。リサ(お母さん)の理由なき暴走や意味なく命がけの帰宅とかは言うに及ばず、ハムを喰うときのポニョとか手足が生えてくるときのポニョとか扉をこじ開けてしまうときのポニョとか、あと始終出てくるデボン期の魚とかもう判りやすいところだけでもエラい怖い。前半で特に怖かったのはポニョが初めて喋るシーン。「ポニョ!ソウスケ!スキ!」「僕も好き!」とかもう悲鳴を挙げそうになるほど怖かった。突然の発語、突然の愛情、そしてそれが何の障害もなく成就してしまう歪な空気。愛とは狂気だとはよく言うけれど、あのシーンで叩き付けられる強い愛情は明らかに狂気だ。そもそも主題歌を聴いたときに既にその狂気の片鱗は感じていたんだけど、もうそんなことどうでもよくなるくらいに飛び抜けたレベルだ。
そして物語はそんな狂気をそこここに(しかも何故だか意図的に)散りばめながら、時にダイナミックに、時にノスタルジックにゴキゲンなドライブを始める。海から来た女の子と共にお母さんを探すためポンポン船で水没した街へと出航する。これだけ見れば何とまぁ楽しい旅だろう。にも関わらず、魔法を使う度に鳥だかカエルだか判らない形状に崩れるポニョとか船の墓場に向かう巨大なお母さんとか、やっぱりあちらこちらが超怖い。
と、ここまでの僕の意見を読むとまるで「描写が怖かった」と言ってるように見えると思うんだけど、もうねぇ、そうじゃないんだ。それらの裏に潜む「的確に何かを狙い、しかもそれを完遂しているらしいんだけど、何を狙っているのかサッパリ判らない感じ」が怖いんだよ。上述の「リサの行動規範」とか正にそれ。あとポニョのお母さんが船上のフジモトと話すシーンで、お母さんが小さくなるときに何か「ムギュムギュ」みたいなおかしな歪み方して小さくなるでしょ。あそこのグニャリ感とかもスゴかった。「俺は今何を見せられてるんだ」って不安になるんだよ。他にも災害描写と街の人の穏やかさの同居とか、とにかくもう言い出したらキリがない。
僕は好きな映画なんだけど、前作『ハウルの動く城』には何か失敗した匂いみたいなものが漂っていた。御大は明らかにやりたいことが完遂できていなかった。ところが上述の通り、今作にはその匂いは一切ない。御大は溢れんばかりの“何らか”を、これ以上ない美麗な描写とドライブ感で力強く描き切っている。何らかが何なのかはサッパリわからない。イメージだけで言ってしまえば、これはもうフェリーニとかゴダールとかそういう人のアレだよ。御大はもうアレがアレしちゃってるんだ。
聞けば御大、今作は子どもたちのために作ったとのこと。きっと御大的には子ども心に寄り添って作ったつもりなんだろう。だけど僕は思う。そっちは子ども=生の方じゃなくて、むしろ逆の方だよ。
そんなことを思いながらの帰り道、パンフレットを開いたら1ページ目にデカデカと「生まれてきてよかった。」の文字。もうねぇ、ホント怖い。そしてホント面白い。
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