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[コメント] 殺人の追憶(2003/韓国)

捜査に携わる男たちの焦りが、何か大きなものに急き立てられる苛立ちへといつしか変わっていく。それは、やり残したことを抱えながら青春を終えなければならない少年のやるせなさに似ている。目に見えない「ある価値」の終焉が映画の根底に存在するからだ。
ぽんしゅう

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







映画のベースに敷かれた価値の混乱をポン・ジュノ監督は、日常のギャップとして物語の背景にちりばめる。

■都会ソウルとさほど遠くはないと思われる近郊の町に広がる田園風景、それは近くて遠い距離感。■殺人現場に群がる村人と、実況見分に群がるマスメディアのお祭騒ぎ的補完関係。■人為によると思われるケロイド傷の少年に、僅かな哀れみを抱く看護婦から娼婦へ身を落とした女。■4年制と2年制大学卒の間に存在するコンプレックス、そして高卒の妬みと諦め。■先の読める占い捜査と時間の読めない科学的DNA鑑定捜査。■互いに牽制し合うように繰り返される軍事統制下の模擬訓練と学生の民主化デモ、そして捜査出動の要請に応えられない機動隊。■民主化のもと暴力捜査を断罪しつつ過激なデモを繰り返すであろうインテリ学生と、暴力という唯一の手段を奪われた暴力刑事。■劣悪な労働条件のもと病気の妻をかかえる変態男と、工場の管理部門で汗を流さず労働する兵役を終えた変態かもしれない青年。

ちりばめられた価値のギャップは物語の中で揺れ動きながら急速に膨張収縮を繰り返し、その軋轢が生んだ時間の皺が人間達を飲み込んでいく。そんな切迫感を若干35歳のポン・ジュノ監督は非凡な才能で描いて見せた。

それが、この作品が骨太のサスペンス映画であるとともに、時代を相手にした人間の焦りと苛立ちを描いた青春映画になっている理由だ。

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〈時代背景の私的メモとして〉

●79年。軍事クーデターによって誕生し16年間政権を維持した朴正煕大統領が暗殺される。それにともなう戒厳令に対し全斗煥少将が粛軍クーデターを起こす。

●80年。学生デモの頻発に軍部は指導者や金大中、金鍾泌ら政治家を拘束。これに反発した学生抗議デモの鎮圧に軍隊が投入(光州事件)され多数の死傷者を出し首謀者とされた金大中に死刑判決。

◎86年。10月15日、最初の事件が発生。

●87年。ソウルオリンピックを控え光州事件関係者が全員赦免される。全斗煥が大統領をしりぞき民主化された選挙(6・29民主化宣言)のもと盧泰愚政権が誕生するも与野党の腐敗政治は後をたたない。

●88年。ソウルオリンピック開催。

◎90年。11月15日、9件目の事件発生。

◎91年。4月5日、10件目の事件発生。

●93年。32年ぶりの文民出身の大統領となった金泳三政権誕生。光州事件での軍隊投入の罪により当時の大統領であった全斗煥に死刑判決。

(評価:★5)

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