[コメント] 丹下左膳餘話 百萬両の壷(1935/日)
古典落語がいつまでたってもその魅力を失わず、古びた感じがしないように、卓越した芸は、まったく古さを感じさせない。人情味たっぷりでもくどさがなく、心にじんとくる絶妙な間の取り方で、「ああ、いいなあ」とほんのり思わせる。
**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。
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見る前は、副題からして、百萬両の壷をめぐる大活劇かと思ったら、実に良質な落語の人情話のようであった。
殺陣の方でも、子どもに目を閉じさせて十数える間にばっさりとやる早業だけでなく、金に困ってやった道場破りでのスピーディな立ち合いもさっそうとしていていい感じ。
なによりもいいのは、ラスト。百萬両の壷、苔猿の壷を見つけても、浮気ができなくなるからと、ほおっておくその余裕というか、心のゆとりが、何とも心憎いばかりであった。
招き猫の置物がダルマに変わったり、的が大きくなったり、釣り糸に鼻の脂をぬったりと、小技も実にほどよく利いていて、まさに絶品。
すごいなと思ったのは子どもが家出をした時、餅が焼けてゆくカットで時間の経過を表現したこと。このカットのつなぎ方で、見ている私は実際にフィルムが回っている時間以上にやきもきしながら、「丹下左膳なんかは何してるんだ、ホラッ、あの子が」と気をもんでしまう。まさに、映画の中に引きずり込まれたわけだ。しかも、それがまた、実に心地よかった。
卓越した芸が楽しめる作品であった。チャンバラものの時代劇もいいけど、こういう落語のような人情味あふれるものも、確かに時代劇の魅力であった。
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