[コメント] カムイ外伝(2009/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
崔洋一は己の怨恨を燃え立たせつつも、同時に第一級のエンターテイメントである作品を見事に生み出した。凡百のコミック映画には及びもつかない見事な出来栄えである。松山ケンイチは今までの彼にない鬼神の如き演技を見事に演じ切り、まさにカムイの名に恥じない演者ぶりを見せている。「抜け忍」には許されない情を拒みながらもやがて受け入れ、裏切られてゆく主人公。まさにここに崔は被差別者の全てを賭け、描ききった。
「非人」という呪わしい言葉は劇中では語られないが、プロローグのナレーションの背後に映し出されるコミックの断片にあからさまに見い出される。思えば権力の側から描かれる時代劇が絶えないのと共に、庶民のなおかつ下層を為す貧民の生活を描く時代劇は昔からあったのだ。しかし、その血脈が耐えて久しい「カムイ」の家族たちは今にしてやっと実写化された(その数十年前にアニメ化されているというのに!)。『水戸黄門』だの『遠山の金さん』だのの与えてくれる権力側の気まぐれな勧善懲悪に酔いながら、我々はこれを忘れたふりをしていたのだ。マルキシズムの甘い夢と、苦い現実とを経て、それらを過去のオモチャ箱に封印すると共に、我々は「上見て暮らすな、下見て暮らせ」というアイロニーの元にしか下層階級を見い出せなくなっていたのだ。絶対的な「正義」の徒は甘い言葉など口にしない。ただ己の受けた屈辱の傷をバネに殺戮を繰り返すのみなのだ。
話は変わるが、ちょっと邪魔に感じるほどにこの映画にはCGが多用されているのだが、これが崔の新たな演出法なら歓迎してもいい。崔は静寂に虫を一匹飛ばせるカットを執拗に使う。鳥や魚達も例外ではない。これはリアリティーの問題ではなく、一種の美意識の現われととりたい。総じて薄暗く、今までの崔の作品からは信じられない品格あるフィルムからは夾雑物とも移るが、自分の目からは新鮮で面白かった。
そして松山ケンイチの新たな魅力と、広がった大後寿々花の可能性を堪能できたことで、文句なしの5点。
(評価:
)投票
このコメントを気に入った人達 (7 人) | [*] [*] [*] [*] [*] [*] |
コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。