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[コメント] 椿三十郎(2007/日)

いい脚本(ホン)だ!
ペペロンチーノ

ここ数年、黒澤プロの奇行は目に余るものがあるのだが、黒澤久雄と林寛子が離婚した時期と黒澤プロ奇行が始まった時期がほぼ同じではないかと私は睨んでいる。 どんだけ慰謝料に窮しているんだが知らないが(子供はもう大きいから養育費は払ってないはずだが)、『』の絵コンテを限定販売してみたり、NHK大河「宮本武蔵」に「『七人の侍』のパクリだ!」と喧嘩売ってみたり、公開後50年を経て著作権が切れた(ちなみに今の保護期間は70年ね)黒澤映画をDVD販売していた会社を「黒澤映画は普通の映画じゃないんです。黒澤明個人の作品なんです。だから著作権は黒澤明の死後50年著作権があるんです」といったような論理で裁判を起こしてみたり。

どんだけ親のすねかじりなんだよ。偉大な父親を持つダメ息子っぷりは長嶋一茂と双璧だな。 なーんて状態だった2年ほど前の黒澤プロに、目を付けた山師がいたんですね。角川春樹って人なんですけど。

このラリってブタ箱に入ってた男がですね、「なら、オヤジの作品を切り売りすればいい。そうだ。リメイクだ!リメイクだ!」って言い出したんですよ。自分も角川書店を追い出されて帰る所も無かったし(一度は自分が追い出した弟に頭を下げる気は無かったらしい)、当時はまだプロデューサー復帰作『男たちの大和』以前で、確実に当てられる作品が欲しかったんでしょうよ。 これでリメイクがイケることに気付いたクロパンは、その後、テレビやハリウッドにオヤジの遺産を売りまくった挙げ句、オヤジ自身も復活させて缶コーヒーのCMなんかに出しちゃうんですが。

まあそういうわけで、まず黒澤リメイクありきで、そこからスタッフ・キャストが探されたわけです。

そこで手を挙げたのが森田君。 「これは、黒澤ファンの自分がやらなきゃいけないでしょう。」 と制作発表当時語ってましたよ。 お前、黒澤ファンだったのかよ。長年森田君に付き合ってるけど全然気付かなかったぞ! と言いたいところだが、実は『模倣犯』の時に薄々勘づいてはいたんだ。

おそらくこの時点では、その後黒澤作品がまさかこんなに安売りされるとは思ってなかったでしょうから、森田君が手を挙げた理由はただ一つ、阪本順治が「好きな原作を他人に変なコトされるくらいなら自分で失敗した方がいい」と『ぼくんち』を引き受けたのと同様、黒澤作品を他人に汚されたくなかった、その一点に違いないのです。 森田君は馬鹿じゃありません。商売上リップサービスをすることもあるかもしれませんが、本心ではオリジナルを超えられるなんて思っていないはずです。森田君が本当に黒澤好きなら、痛いほど分かっているはずです。 そして、森田君自身が負け戦を請け負うことで、黒澤の呪縛から解き放ち、忠臣蔵などと同じように何度もリメイクされるような普遍的な作品へと移行する踏み台となったのです。

これは、森田芳光の黒澤明への愛の作品なのです。

その証拠に、彼はオリジナル脚本のまま、逃げずに真正面から正攻法でリメイクしたでしょ。 例えばこれが三池崇史だったらヒドイことになってましたよ。 偉大な先輩に対する敬意が、この映画には溢れているのです。 例えばこれが凡庸な監督だったどうでしょう。いくら脚本が面白くたって面白い映画になるとは限らんのですよ。 ぶっちゃけ、オリジナリティーを出して失敗する方が気が楽なんですよ。お前ら、森田芳光の実力を思い知ったか!

ま、最後にやっと映画自体に触れますが、クロサワもミフネも抜いた結果、改めて際立つのが脚本の巧みさ。いや、ホントによく練られた脚本。完璧。凄いわ。 近頃少し黒澤映画と地球の男に飽きたところだったんですが、その面白さを再認識した。改めて感動した。

今、オリジナル版をスクリーンで観たら、100%俺は泣く。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (14 人)TOMIMORI[*] chokobo[*] トシ shaw すやすや[*] うさぎジャンプ[*] 浅草12階の幽霊 イライザー7 4分33秒 甘崎庵[*] 山田クン [*] まー サイモン64[*]

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