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[コメント] 椿三十郎(2007/日)

織田は三船にはなれない。という当たり前の事を認識すれば充分観られる出来でしょう。それ以上を求めてはいけません。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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 かつて黒澤&三船の黄金コンビで作られた『椿三十郎』(1962)の完全リメイク。「完全」は伊達ではなく、キャラが異なり、色が付いた他はほとんど全く同じ。オリジナル版で笑えた部分では全部笑えたし、丁々発止のやりとりも同じ。これはけなしているのでも褒めているのでもないが、森田監督はきっちりと自分の割り当てられた役割を果たしたと言うことだけは言える。原作付きの物語をきっちりと仕上げる森田監督らしい作品とも言えるだろう。

 それでも良いところを挙げるならば、キャラが全体的に薄くなったため、三十郎一人にスポットが当たることなく、若侍達にもちゃんと個性が感じられたことと(何せオリジナルではあの加山雄三ですら三船の強烈さに当てられて個性無くしていたし)、オリジナルよりは笑いの要素が強く作られていたと言うこと。

 でもこれは裏返せば、どれだけオリジナル版は三船敏郎(および仲代達矢)という個性に依存した物語だったのかと言うことを浮き彫りにした。あれだけ完璧と思った作品でも、脚本ではなく役者の個性にどれだけ依存していたか。と言うことを知る事が出来たのは一つの成果だろう。

 ここでの三十郎は強烈な個性はないが、飄々としてすべき事をきっちりと行っているし、無理に役柄を超えた個性を見せようとしていないので好感は持てる。織田が引いたため、若侍達の個性もしっかり見えているし、松山ケンイチなどはむしろ出しにくい役所で上手く個性出していたと思える。一方中村玉緒の雰囲気が実に良く、オリジナルの入江たか子に負けない個性を出してくれた。あのスローなしゃべり方が見事にはまってる。豊川悦司は…多分現代で最もはまったキャラではあろうけど、織田の個性の弱さに引きずられて個性があんまり見えなかった。

 一方、演出の弱さは痛い。カラーにして余計スケールが小さく感じたし、最後のあの世界に衝撃を与えた決闘シーンがああなってしまっては…撮影技術はオリジナル当時より上がっているはずなのに、逆に演出がオリジナルよりも古くさく感じさせてはいかんだろ。

 ただ、プロデューサである角川春樹は、これをどんな気持ちでリメイクしたのだろうか?森田芳光監督を選んだ時点で、こういう作品になることは目に見えていた訳だが、そこまでリスクを回避したかったんだろうか?外れを覚悟でもうちょっと個性ある監督を選ぶとかして欲しかったなあ。やったらやったで無茶苦茶言われるだろうけど、例えば三池崇史監督辺りにやらせたら、最後にとんでもないことをやるんじゃないか?と思わせてちょっとわくわく出来たんだけど。

(評価:★3)

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