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[コメント] リリイ・シュシュのすべて(2001/日)

誰のための物語なのか?
tamic

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







たぶん岩井俊二は少年の閉塞感を表すのは成功しているのかなと思う。14歳の内包するどろどろした、手におえない塊。誰が得するでもない、すべての少年が傷ついている世界。いじめるもの、いじめられるもの、それがいつ逆転するかわからない、不確かで危うくて、本当に信じられるものが全くない絶望的な世界。バカみたいに能天気で無関係な大人たち、しがみつきたいけど虚構でしかないネットの世界、どこにもリアルなんてない。自分のほんとうの居場所がない、ワカラナイ。不安な14歳の私はそれはどこかに必ずあるのだろうとあこがれた。でも、あの頃からもっともっと流動的で相対的になったイマでは、少年たちはそれにあこがれることすらできない。虚無なんだ。息苦しい。

ちょっとクサかったり、あざとかったりしても、それはうまく描けてると思う。でも、私がこの映画を快く思わないのは、少女たちが道具でしかないことだ。痛々しさを倍増するために、少女たちはレイプされ、一人はカイトのように「飛ぶ」。「強いから大丈夫」なもう一人の少女は、おおしくも前をみすえて生きる。なんて都合のいい、勝手な描写だろう。マンガしかり、映画しかり、ドラマしかり、男は少年の閉塞感を少女をレイプすることでしか描けないんだろうか?(岡崎京子をみならえ!)さも、当たり前のようにレイプが「仕掛け」として扱われることがムカつく。お金持ちで優等生のお坊ちゃまが、パパの会社が倒産して、一家離散になった痛みと、少女が同級生の少年たちにレイプされる恐怖、痛みは同等なんだろうか。なんて男って弱くて、役立たずで、はた迷惑な社会的生き物だろうと、ホントかなしくて反吐がでる。

14歳の精神的閉塞感を虚構をとおしてリアルに表現したとしても、着地点のないこの絶望的な物語に何か意味があるんだろうか。いったい誰のための物語なんだろうか。もうそんなことどうでもいい!ってくらいにスゴイ映画ではない。こんな身近で切羽詰ったテーマをこういう描き方しても、誰も得しない気がする。映画はそういうものではあってほしくない。

(評価:★2)

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