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[コメント] リリイ・シュシュのすべて(2001/日)

ちゃらちゃらした映像と癒し系の音楽は緩衝材のつもりなら効き過ぎで腰の据わらぬこと夥しい。鬱度不足だし、そもそも加害者の視点が欠落している。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







雄一君みたく当面の無難を信条に小心かつずる賢く生きている奴は大人にだって山ほどいる。本作は彼が(保身のためレイプの介添えまでする)ずる賢い加害者なのだ、という視点がほぼ欠落しており、ただ耐え難い世界をヘッドフォンで遮断するばかりだ。ラストは彼女に謝ろうとしているのだろうか。しかし、謝っても済まないと思う。

「悪人」が許されるのはたいへんだ。ドストエフスキーはラスコーリニコフを許すのにどれだけの紙数をかけたか考えてみるべきだ(しかもスタヴローギンはついに許すのを諦めている)。それだけの労力を費やして初めて償いが語れるということだ。これを雄一君が知るには、この物語は鳥羽口にも至っていない。彼が本式に鬱に罹るのはその先のことであり、そこを描いてもらわないと生温いだけだ。このラストは、ただ映画の上映時間が切れただけに過ぎない。

だいたい、人を簡単に殺しすぎだ。そんなに物事簡単に「解決」しやしないよ。宗教系な音楽の扱い(中学生にはよくあることだ)は、全肯定か全否定かすれば何かの典型になったのかも知れないのに、うっすらしたイロニーだけで煮え切らないのも詰まらない。派手な採光は市川崑系なのだろうが、師匠は上手かったのになあという感想。

ただ西表島の万引き旅行、万引きのアクションは面白いし、「悪いもの持ってきたんじゃないか」と云われて最後は金を海に捨てる羽目になる件は良かった。あれでなぜグレるのか、親友が主従関係になるのかは判然としないが。

(評価:★2)

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