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[コメント] この世界の片隅に(2016/日)

現実にあった世界、実在する人物
HAL9000

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







傑作である。そう言って憚ることはないと思う。 この物語は原作がとても良いので、そうすると映像化作品に対しての評価は往々にして低くなりがちだが、今作はまったくもって素晴らしいものになったと感じた。卓越したアニメーションのコンセプトによって人物描写や戦時の疑似体験を可能にし、この作品のテーマを昇華していると言える。

こうの史代、片渕須直、そして何と言っても能年玲奈。これらコラボによって今作がちょっと奇跡的な仕上がりになったが、とりわけ能年ちゃんがすずを演じたことが今作を押し上げた最大の要因だろう。 メタ的にも彼女以外はほとんどがプロの声優たちであり、それが呉でのすずの立場に相似する。しかしそんなところで寄り添えるかどうかに関わらず、声優然としていない能年ちゃんの演技がなければアニメ版のすずはあれほどに魅力的では無かっただろう。可笑しくて悲しくて、凡庸でありながらときにたくましく、また弱さを見せるが内面には激しさがある。そういうすずはマンガでも同様なのだが彼女の声と憑依したような演技がそれを拡張し補完してしまっていると感じる。 片渕監督はすずが実在するものとして捉えようとしているから、リンのエピソード、太極旗を見たときのセリフなど意図して変えたものがあるという。個人的にはその配慮も含めてまったく同意したい。後者については今となっては原作の方に違和感がある。リンのことは「完全版」で見られるかもしれないが、右手を失い子供を産むこともできなくなり(おそらくは)、肉親を失ったすずにこれ以上悲しい思いはしてほしくない、ということなのだ。

それにしても今作は実際のところとんでもなく情報量が多い。 原作の上中下3巻をほぼ網羅した内容で、そのテンポ感が娯楽性に寄与している。それでもしっかり染み入ってくるのは細かな配慮があるからだろう。それは片渕須直の力量であるのだが、あの原爆投下の描写はこうの史代の原作マンガが極めて優れていたので映像化するとあのアイデアの素晴らしさは失われる。あえてリアルに描いたのは今作で一貫している戦闘シーンの精緻さと整合しているので何の問題もないが。

まあとにかく泣けました。頭が痛くなるくらいに泣けました。多くは語られなかったが最後に見えてくるリンの物語や、あの孤児の成長(まだ若い夫婦が引き取る理由!)など、これでもかとたたみかける126分。3回観て、極上音響も経験。あとは呉に行くだけかな‥。

というようなことを書けるようになってよかったよかった。CinemaScape復活おめでたい。

(評価:★5)

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