[コメント] この世界の片隅に(2016/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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柔らかく淡々とした描画と演出のなかで、ヒロインは日々を重ねそこに喜びや楽しみを見つけ、暮らしを続けてゆく。そしてそれこそが、時代への指弾になることをクリエイターたちは意識している。
途中までのヒロインの試行錯誤のドラマと、家族たちとの交流を描く筆致はホームコメディに相違ない。やがてそれはおのれの右手と姪の喪失とともに塗り替えられようとするのだが、あくまで彼女は反戦の想いに拳を振り上げたりはしない。そんなことは後付けの嘘であるし、この世界に生きる人々のすることではないからだ。その幸福を攻撃し、その行為によって得られるちっぽけなカタルシスに満足するよりも、もっと時代のなかで得られる人生の糧を味わうほうが楽しいうえに、それこそが生き甲斐を奪う世界へのプロテストとなるのは明白だ。
主人公が奪われたものは、彼女が縮こまる理由にはならなかった。だからこそ彼女は今後残された左腕でも絵は描けることに気づくだろうし、姪を奪われたその手で孤児をふたたび抱き、帰るべき家に帰るのだ。戦争は試練であったかもしれない。だが主人公はそんなものに人生を歪まされるつまらない女ではない。立派に自分を取り戻す彼女のバイタリティは、それゆえに好ましくいとおしい。戦争はついに背景を脱することなく、テーマとして立ちはだかる存在にもなり得ない。当然だ。たくましく生活に復帰したすずの物語こそがこれなのだから。
直球の反戦映画はもちろん必要だが、この悪夢のようにしか受け取られない時代を描く物語が判を押したようにプロパガンダに堕する必要はない。これは時代風景に彩られるだけの「女の半生」を描く映画だ。爽快なまでに素晴らしいエンドタイトルがそれを物語る。
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