コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 世界大戦争(1961/日)

「−−−−、・・−、−−・・、・・・−、−・、・・、・−−・、−・、−−・−。」=「コウフクダツタネ」
荒馬大介

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 ……それに対する答えが「−・、・−・・、・・−−、−・−・−、・−・−・、−−・−−、−−・、・−・・、・・、・・−・・、・・−。」=「タカノサンアリガトウ」。そう、二人を繋いでいるのは、ほんのわずかな長音と単音だけだ。これだけでも心は通じ合える、という何とも心憎いワンシーンである。

 本作の存在は小学生時代から知っていた。当時の愛読書「世界の怪獣大百科」(剄文社刊)の巻頭カラー写真は、『ゴジラ』から始まる一連の東宝特撮作品のポスターだった。自分お気に入りの『キングコング対ゴジラ』もあったので喜んだものだが、唯一恐怖を覚えたものがあった。それが、本作のポスターである。「日本国民の悲願も空しく、人類最後の時は来た!」そんな宣伝文句で、おまけに核爆発の絵がでかでかと載っているポスターに対し本気で恐怖を覚え、余りにも怖くて眠れなかった。そこだけ飛ばして読もう………としたのだが、その隣のページが大のお気に入り映画『キングコング対ゴジラ』なのが困った。仕方なく、視界に入れないようにして読んでいた。

 中学生の時にビデオで鑑賞してようやくそれがどういう映画なのか分かったが、それにしても怖かった。この映画は、人間が人間によって滅亡を迎えるという恐怖だ。その危険性は、本作公開から40年以上経った現在でも全く変わってはいない。そして、その恐怖に対して戦慄を覚えなくなった時、世の中は確実にマズい方向へ進んでいるという証明となるだろう。

 「やい、原爆でも水爆でも来てみろ、俺達の幸せに指一本指させねぇぞ!俺達は生きてるんだチクショー! チューリップが咲くのを見て楽しむんだ……! 母ちゃんには別荘建ててやるんだ! 冴子には凄い婚礼させてやるんだ! 春江はスチュワーデスになるんだ! それに、一郎には大学に行かせてやるんだ! 俺の行けなかった、大学によぉ……!」

 「この映画には善人しか出てこない」という批判もチラホラ聴かれる。だがこの映画が訴えたかったのは「善人」ではなく彼らの行為であり、家族や個人が誰しも持っているであろう夢や希望というものを代弁しているものといえる。確かにあの状況であれば、私欲欲望に走る人間達が現われるのも当然のことだ。現に、この映画の企画当初に橋本忍が書き上げた脚本は、そういった人物が登場する展開になり、人間達の醜さを曝け出す様な話になっていたという。

 しかし松林宗恵はそれを許さなかった。世界が滅亡に近づこうとしている時、それならば何をやっても許される、もうどうにでもなれといって自らの欲望を曝け出す……これが愚かであることはいくらでも指摘出来る。だが松林監督はそれよりももっと大切なことを訴えようとしたのだ。それが何であるかは、この映画を最後まで見れば一目瞭然だ。人間にとって最も愚かな行為とは、自らの手で人類を滅亡させる行為=核戦争である、と。人間が持つ夢、希望を完膚なきまでに打ちのめし叩き潰す第三次世界大戦を、今こそ防ぐのだ!と。「もっと早く“戦争はいやだ”と言えばよかったんだ」と呟く、その前に……。今、こんなメッセージを言える映画があるだろうか。

 最後に、円谷英二の特撮について。再見した際、クライマックスの東京核爆発の場面にあまり「リアル」というものを感じなかった。リアルという言葉はもっと生々しい描写、例えば『ターミネーター2』の核爆発のようなことを指すはずであり、この映画の場合はリアルという言葉が似合わない。むしろ、これは絵だ。抽象画のようなのだ。どこのビルだか分からない建物の外壁だけが、のた打ち回るような炎の中に残るというあの画。そんな描写が延々と繰り返され、ちらりと映った折れ曲がったタワーのおかげでようやくここが東京だと判別出来る、というあのシーン。そこに、戦慄を覚えずにはいられなかった。

 リアルじゃなしに観ている側を恐怖に叩き込んだ円谷が、単なる技術屋でないことがよく分かる。現代において、彼の技術を越えることが出来ても、イマジネーションを越えられることはまずあるまい。

(評価:★5)

投票

このコメントを気に入った人達 (9 人)づん[*] シーチキン[*] デナ おーい粗茶[*] sawa:38[*] ロボトミー[*] kiona[*] 甘崎庵[*] ペンクロフ[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。