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[コメント] 世界大戦争(1961/日)

製作当時の米ソによる本格的な核軍拡競争の幕開けに対し、原水爆への怒りと恐怖、拒否をストレートに描き、ある意味では『ゴジラ』に匹敵する名作ではないか。
シーチキン

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







当初は日本特撮映画界のSFモノの一本かなと思っていたが、それどころではない、衝撃的な名作。

いささか理想主義的なところはあるが、手作り感あふれる特撮の数々が、むしろわれわれの知らないところで世界の終末が決定づけられるという、恐ろしさを生々しく感じさせる。

それにフランキー堺一家の日常の描き方は秀逸。短い時間ながらも家族としての生活感を、ていねいでよく練られた脚本によって浮かび上がらせ、その結末の悲劇さ、言いようのない悲しみを深く心に残した。

この映画の製作当時は、米ソ両陣営による本格的な核開発競争の真っ只中にあり、ビキニ被爆事件なども起きて、原水爆戦争というのが現実的な可能性を持って語られ始めた時代でもある。そういう時に、あえてこういう映画をつくろうとした映画人たちの心意気は素晴らしいと思う。

劇中の日本の首相の台詞に「(戦争を)放棄しているからこそ、両陣営に強いことを言える」と、その調停に奮闘している様子がさらりと描かれているし、またそうでなければならない、という願いが示されていると思う。

日本国憲法第9条のことを言っているのだろうし、本来、日本が新しい憲法を制定して二度と戦争をしないと決めたことの意義はこの点にこそあることは間違いない。

しかし、この映画ではそうでありながらも、残念ながら日本も、一方の陣営から、もう一方の陣営に属しているとされミサイル攻撃の対象にされ、現に第三次世界大戦が始まれば、宣戦布告や通知もないまま、一方の陣営からミサイルによる攻撃を受けるのである。

この背景には、言うまでもなく日米安保条約を柱とする日米安保体制があるのだろう。 日本国憲法を頂点とする戦争放棄の日本と、日米安保条約に象徴される日米安保体制下の日本という、矛盾した日本の現実を鋭く反映しており、この意味で、SF映画としても傑作といえる。

もっともっと、日の目を見てもおかしくない、また日の目を見てほしいと思わずにはいられない一本。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)sawa:38[*]

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