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[コメント] バンテージ・ポイント(2008/米)

精緻な脚本によって様々な視点から描かれるひとつの事件。浮かび上がった意外な結末は……
林田乃丞

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 ……あ、あれ? 意外な結末は……?

 いたってご都合主義の大団円に肩透かしを食らった感じ。特にフォレスト・ウィテカーがからむ少女のパートに関しては結末ありきの作劇で、ガード下にたどり着くまでの十分な動機が与えられていないので追いかけるのがかなり苦しかった。彼のビデオカメラも大筋には何ら影響を与えていないし、にも関わらずスーパーマン的な役割を背負わされてしまったのでキャラクターとして浮いてしまっていたような気がするんです。彼は勇敢で、観察力に優れていて、すぐ近くで爆発があっても全力疾走できる屈強な身体を持ち、狙撃地点を見破ったり建物から飛び出してきた逃亡者を誰よりも先に見つけたりと、幸運も持ち合わせている。ある意味で、ノイローゼ気味のバーンズ氏なんかよりよっぽどSP向きの人物として登場してしまってるんです。そのために、物語の力点がぶれてしまっていたように思います。

 また、複数視点で物語を構築するうえで致命的だなぁと思ったのが、バーンズ氏のパートで「引っ張り」を入れてしまったこと。バーンズ氏がビデオカメラを覗き込んだとき何が映っていたのか、中継車で電話をかけているときモニターに何が映ったのか、これを見せずに引っ張ってしまったことです。

 複数の視点によって物語を解き明かす手法においては、単体の視点で見えない事実が他の視点で見えることにカタルシスを生まなければならないと思うんですが、単体の視点ですでに謎が残っているために、観客はその謎の答えを得るために再度バーンズ視点のパートを待たなければならなくなる。「バーンズが何を見たか」という疑問はバーンズ視点でしか語れないわけだから、それを全部見せた上で次の人の視点に移ってくれないと、その瞬間において次の人のパートに移行する必然性がない。これがけっこうなストレスで、結果として牽引力を失って他の人の物語に入り込むことができなかったように感じました。

 この手法で物語を構築するなら「バーンズが何を見たか」で引っ張るのではなく、「バーンズが見たアレは何だったのか」を次の人の視点で解き明かすなり、「バーンズが見たアレによってあの人はどうなってしまうのか」という、ある事象の影響を他の人に倒しこんでゆくような作劇を取らないと、複数視点で語る意味がないと思うのです。

 総じて、こういう骨組みでまず驚かしてやろうという映画はすごく好みではあるのだけれど、物語の「血肉」的な部分が物足りなく感じました。

(評価:★3)

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