コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] パンズ・ラビリンス(2006/メキシコ=スペイン)

われわれ「人間の世界」など一顧だにしない世界のありようを思わせる、という意味で大人のファンタジー。
おーい粗茶

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







その異世界は、われわれ人間にとって安らぎを感じさせてくれるものでも、恐怖を与えてくれるものでも、別に人間にとってのどっちかとかいうものではない。人間界とは全然関係がなくそこにある。人間界は人間界の仕組みのことで人々が争っているさなか、地底の世界では地底の世界の、満月がどうだとか、食卓の番人が目玉を外しているとか、人間にはよくわからない掟や理屈でもって世界が成り立っている。

これは動物界や植物界と同じような世界ではないだろうか。

本作は、同じ地球に共存していながら、それぞれが同時に独自の原理で成立している「世界」の多層的な有り様を味わわさせてくれる。「○○界」の住人だった者が、その世界からはじかれようとした時などに、その者は、自分の住んでいる「界」の有り様や原理に疑いを抱く。そういう時にその者は、別の「界」の裂け目に足を踏み入れてしまうのだろう。それを「空想の世界」ととらえるのは、自分の住んでいる「界」の側に立っての物の言い方で、従来の多くのファンタジーはそのような立脚点で描かれているように思う。本作は「人間界」など一顧だにしない別の界というものが、「現実にあるのだ」という視点を強く感じるのだ。それは人間界の争いの様子と、パンの迷宮での話が、並行して、いや平行的に(交わらないで)描かれるからだ。

別の界の住人たちは、人間の争い(本作では代表としてスペイン内戦がとりあげられている)を見て何と思っているのだろうか? 何とも思っていないのだ。人間の深い悲しみや酷い痛みのすぐそばで、虫や植物はただ彼らの世界を生きているだけだ。そういう描写を通じて、人間界は、多数の他の界から何とも思われていないことを知り、己が地球の主役のように振る舞っている傲慢を知る。なぜ森に新種の白い花が咲いたのか? そういうことに気付き、そして他の「界」があることに思いを寄せよ、ということこそ本作のテーマと思う。

大尉の自宅の庭はそのまま森につながっていて、その森の奥にレジスタンスが潜んでいる。大尉は自分の家の庭に住んでいるレジスタンスと戦争をしている。その閉鎖的でかつ奥行きの広い空間は、パンの側から見れば「迷宮」のごとくかも知れない。

(評価:★4)

投票

このコメントを気に入った人達 (8 人)DSCH[*] セネダ[*] プロキオン14[*] パグのしっぽ[*] 牛乳瓶 ぽんしゅう[*] けにろん[*] 水那岐[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。