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[コメント] チョコレート(2001/米)

父親の不在という心の隙間を、チョコレートバーで埋める少年。父親の愛情を得られない心の渇きを、チョコレートアイスで埋める男。そしてそのふたりをつなぐ、チョコレート色の肌を持つ女。
tredair

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







いかにも支配者然とした仏頂面の父に、それでも「コーヒーをいれなおそうか?」と帰宅するやいなや声をかける男。まるで興奮する父をなだめるかのように、いささか義務的な面もちでライフルを手に外へ出てゆく男。山盛りのチョコレートアイスクリームを無表情に食べつつも、自分の息子の近況を尋ねられればそれなりに応じる男。

差しのべられた手をそっとふりほどき、まるで言い訳するかのように「それよりも息子との別れを惜しんでほしい」と言う女。息子の描いた絵をのぞき、「私はこんなふうに見えるの?」と不思議そうに問う女。突然の驟雨に顔を曇らせ、ダイナーの入り口にあった傘をチラリと物憂げに見つめる女(そもそもあれは、自分自身の傘だったのだろうか?)

さりげなく挿入される場面での周囲の情景や空気感、微妙な表情、数少ない台詞だけで、ふたりの立ち位置や感情、その心の動きが細やかに伝わってくる。

たとえ実際に仰ぎ見る空は快晴であったとしても、彼等の心の中はいつも霧雨でけぶっていて。たとえ南部の暑い大地に暮らしながらも、彼等の身体の芯はいつも冷ややかに凍っていて。

けれど、その拭いようのない寒さに震え続けていた男と女は、裸になってからみあうことで、生まれて初めての暖をとることになる。

「やさしくされたい」「やさしくしたい」ふたりがずっと願っていたのは、ただそれだけのシンプルな(けれど彼等にとってはとても難しかった)こと。

背後からしか女を愛せなかった男が、情(まだ愛ではない)を知ることで、相手と視線をからめあいながら向き合って愛しあうことをはじめる。というそれだけのことでも、その舞台となる土地柄(ジャクソンという地名が、もう、いかにもである)や二人のおかれている状況などを思えば思うほど、とびきり切なく涙さえこぼれそうになる。

たとえそれが一時の感傷的な「Monster's Ball」であったとしても、それでもそんな男と女のこの先が、その関係性が、単なる情や情念ではなく愛へと昇華することで少しでも幸福なものになってくれれば、と私は切に祈りたい。

ふと見上げた星空だって、まるでふたりの未来を祝福しているかのように美しくきらめいていたではないか、と。

(評価:★4)

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