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[コメント] 八日目の蝉(2011/日)

2時間半、映画を観る喜びを味わわせてもらったことを成島出さんに感謝したい気持ちです。
ナム太郎

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







角田光代の原作が好きで、今年一番と言っていいほど期待と不安を抱いていた作品なのだが、原作の世界を最大限に生かしながら、映画としても本当に素晴らしい、何度でも観たくなるような作品に仕上げてくれた成島出に、今はもう感謝の言葉しかないというのが正直な気持ちである。それほどこの映画には、作り手側の原作に対する敬愛の念がこもっていた。

たとえばラストにしても、既読者としては、あれをどう映像化するのだろうという心配のほうが大きかったりしたのだが、結果として映画オリジナルの本当に素晴らしい終幕が用意されていたことに、ああ、あれは映像化しても絶対に原作を越えることはできないという自覚から生まれたものなのだという作り手側の潔さを感じ心から敬服したと同時に、改めて既読者をこえた一観客として、身体の奥底から溢れ出る涙をこの素晴らしい傑作に捧げたい思いであった。

また、そのような傑作に対する賛辞を述べるにあたっては、あえて物語にはふれずに、成島組が作り出した映画の中で特に素晴らしいと感じたところを思いつくままに挙げるほうがよいのではないかと思った。それはこの作品が、そのような賛辞に値する素晴らしい「映画」だからである。

***

◆誘拐の際の、台詞すら聞き取りがたいあの容赦ない激しい雨。あれはなかなかお目にかかれない見事な雨だった。その雨の中坂道を傘もささずに走りゆく永作博美。また、「知らない家」から脱出し、その坂道を、雪の降る中ひとり走りゆく渡邊このみ。その反復の妙。

◆伏線の妙。永作井上真央が自転車で坂道を降りる際にともに見せる開脚という仕草。また、「お星さまのうた」のくだり、永作の歌声に激しく効いてくる森口瑤子の嘆き。

◆泣きやまない赤ちゃんに自らの乳房を与え「出ないよね」とつぶやく永作。そしてそのあとに見せる赤ちゃんと永作の号泣。その泣き声のすさまじさ。

◆エンジェルホームの床。その磨き抜かれたツヤと輝き。そしてその床のきしむ音。

◆小豆島の自然、祭りや素麺づくりを丁寧に切り取った藤澤順一の撮影。行ったこともないのに懐かしさすら感じる寺社、棚田等のロケーション。

◆映画においては非常に重要な役割を示す写真館。その風情。また、そこに漂うがごとく存在する田中泯のひとつひとつの仕草。そして声。等々…。

***

思いつくままに記してみたものの、まだまだ書き足らないところは多々あることだろう。それはまた、この映画を見るたびに書き足していくことにしよう。

あと、最後の最後になってしまったが、難役に真正面からぶつかっていった井上真央、また本作でますます心を鷲掴みにされた永作博美、そして役者としての今後にますます期待を寄せたくなった小池栄子等々の役者にも心からの賛辞を。そしてまた願わくば、この傑作がより多くの方々の目にふれ、その存在が永遠に語られんことを。

(評価:★5)

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