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[コメント] 冷たい熱帯魚(2010/日)

でんでんだよねー。彼の圧倒的な演技力に館内は唖然としていました。(2011/02/05テアトル新宿で立ち見)
chokobo

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







たまたま「甘えと日本人」という土居健郎先生(2010年逝去)の対談本を読んでいたら、戦後日本は西洋文化を輸入することによって、かつて日本人が大切にしてきた子供の扱い、特に甘えを許さなくなった、と書いてあったんですね。

これ、この映画に置き換えると深いんですよ。

まずはでんでん扮する殺人鬼ですが、彼は彼以上に自分の父親に対してコンプレックスを抱いていることが映画の中で語られますね。山奥の家に封じ込められた父親とその息子としてのコンプレックス。それが、あの山奥の家にある十字架(キリスト)であったりマリアであったりする。そして甘えることを許されなかった自分が今実行している殺人の数々。戦前はこんなことなかったのでしょうね。江戸時代にもね。

最近芥川賞を受賞した「苦役列車」にも似た感覚が漂います。

主人公の娘も同様。

後家さんが来てから全く甘えることができなくてぐれる。父親は甘やかすけど、そんなことはおかまいなし。甘えると甘やかす行為は別物ですからね。甘えることを知らない娘は自分の居所を他へ求めようとしますね。

彼女が最後に自決した父親の向かって吐き捨てる言葉は、『告白』の教師が「なーーんてね」と言った言葉以上に重いですね。果たしてこれが現実なのでしょうか?

ということで、この映画が最初から実話であることを前提としている点が、映画全体を価値あるものにしていますね。

この血まみれの連続。

前半は目を背けたくなるシーンの連続ですが、後半になるとその感覚がマヒしてきます。

そしてこのマヒした感覚のまま映画を見続けますと、冒頭の「実話」という文字が浮き立つような仕組みになっているんですね。

すごい!

主人公の熱帯魚店の店主が、最後の最後に自分のマヒ感覚を飼い主(でんでん)にぶつけますが、飼い主の側はそれを最初から知っていたかのように優しく(厳しく)受け入れる。この感情の推移は、魂の移転とでも申しましょうか、かなり宗教色の強い映画だったと思います。

昨今、『告白』にも代表されるように、テレビとのタイアップを敢えて避けて、映画館でしか見ることができない作品を世に問う傾向が生まれているようです。

思えば園子温監督の『愛のむきだし』もそうですね。

タイトルとは正反対の高温な映像と物語にまたまた圧倒されてしまいました。

2011/02/05 テアトル新宿

(評価:★5)

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