[コメント] GOEMON(2009/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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いやビックリした。これ『CASSHERN』じゃないか。しかも厄介なことに僕のツボをあまり押してくれない「CASSHERN」だ。前作より5年の時を経た紀里谷和明の新作が、まさかこんな形で出てこようとは想像もしなかった。正直言うと「CASSHERN」を悪く言う人の気持ちが少し判った。
そもそもが長過ぎる。「これが最終決戦か!」ていうのが3回くらいある。しかも主旨が判りづらい。いや、紀里谷和明のライフワークたる命題が「戦いとか良くないよネ!」にあるのは知ってるんだよ。ただそこの着地点がどうにも不明瞭というか、どっちかと言うと「殺せ殺せ」映画になってて、とてもじゃないけど「命って大切よね」とか思えない。あぁ、これみんな「CASSHERN」で言われてたことだ。
紀里谷和明ってかなり子どもっぽい人じゃないですか。映画の主題を取ってもインタビューを読んでもその辺は伝わってくる。考えてみれば、そんな人が前作の悪評を耳にして「じゃあ」とか反省するわきゃないんだよな。この辺りむしろ「さすがキリキリ」と言わざるを得ない。これ要は「CASSHERN」の弔い合戦なんだよ。また負けた気がするけど。それにそもそも弔いとか要らないから。何故なら「CASSHERN」は最高の映画だからだ。
ただそんな作品なだけに、「CASSHERN」との比較から垣間見える紀里谷的感覚は大変に面白い。タイトルロゴはアルファベットの細明朝で、キメのシーンは月を背景にしたシルエット。鶴田真由は今回も「早逝した母親」役だし、佐田真由美も前作同様「敵方エロス」だ。寺島進は何故だか権威の末端みたいな位置にいて、演技派芸人(宮迫博之・ゴリ)をポイントに置くところまで同じ。またヒロイン(麻生久美子・広末涼子)は無味無臭がお好みの模様だ。
さらに「主人公のアクションシーンは天から降ってきてドアップへ」というものお決まりらしい。逆にクライマックスは「キラキラ光るものが天に昇る」だ。どうもこの人の絵作りやアクションは基本「上下動」に重きを置いているみたいで、吹き抜けぶっ通しの大坂城なんてその最たるものだろう。しかし何か書いてて段々不安になってきたんだけど、この人こういう映画しか作れないんじゃないか。大丈夫か、監督としての幅は。
でまぁじゃあそれだけ「CASSHERN」的な今作を観て何故僕が興奮しないのかと言うと、「CASSHERN」にあった「微妙なオタク臭さ」が今作には希薄だからなんだ。江口洋介とか奥田瑛二とかさ、何かキャストに“現実感”があるんだよ。でそのクセ紀里谷和明の青臭いオタク臭だけが全く変わってないから、どうにも居心地が悪い。ここは「紀里谷和明プレゼンツの子どもの国(でも人はいっぱい死ぬ)」なんだから、こういう世間擦れした大人的存在の人たちは入らないでいただきたいよ。
逆に五右衛門の幼少時のシーンなんかは大変に良かった。ここのキャストには現実の匂いがしないから、「腕を斬られながらも姫の側に控える」とか素直に興奮できるんだ(ただし福田麻由子に関しては「もうちょっと広末に似せようという努力をしていただきたい」とか思った)。あと「才蔵の処刑シーンの口上」も超興奮した。大沢たかおも現実臭いっちゃ現実臭いんだけど、セリフの臭さが彼の現実臭さを凌駕したんだ。この辺りの現実離れしたケレンが気持ちいいのよ。でもあれか、てことはこの調子で紀里谷が何本か撮り続けたら、キャストによってはそのうちまた「CASSHERN」みたいな映画が出来るかもってことか。ならいいや。今作はこれでいいよ。
劇場で900円というお高いパンフ(これまた紀里谷らしい手の込んだ装丁)を買った。目次ページに監督の文字で「GOEMONは、僕の二人目の子供です。みなさんに愛される子になって欲しいと思います。紀里谷」と書いてあった。もうこれだけでも最高に紀里谷臭くて涙出てくるんだけど、紀里谷和明にはこれに懲りずにガンガンと同じような映画を撮っていただきたい。産めよ増やせよ、待てば海路の日和ありだ。いつか報われる日も来るだろう。たまたまそれが今日じゃなかったってだけだ。
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