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袋のうさぎさんのコメント: 点数順

★5音楽ホール(1958/インド)トライバル・ダンスの愛好者としては、とりを飾るローシャン・クマーリーのカタック舞踏ほど衝撃的な映像体験はなかった。この汎宇宙的なリズムの澎湃と世紀から世紀へと血の滲む研鑽と琢磨が重ねられてきたコレオグラフィーの鍔迫り合いは西アフリカ土着のポリリズムよりほかに世界広しといえども匹敵するものはないように思われる[投票]
★5第七の犠牲者(1943/米)住人不在の空き部屋の壁に揺らめく首吊縄の影。深夜の廊下の果てから誘いかける無間の闇。見えないものが囁きかけ、存在しないものが追いかけてくる。暗示による戦慄の表現の究極。9/10[投票]
★4ザ・ハント(2020/米)ポストトランプな『猟奇島』だからといって、誰が一笑に付すことができるだろう。序幕は真の主人公が確立されるまで、のべつ幕無しに視聴者の先入観の裏をかくことに重点を置いた構成。ジャンルファンなら無関心でいられない仕掛けが散りばめられてる。惜しむらくは、中盤以降、出涸らしのミームの寄せ集め以上にナラティブ的な深化が見られない。マナーハウスの果し合いに至っては、『キルビル』の劣化コピーに甘んじている 7/10[投票(2)]
★4ブルータル・ジャスティス(2018/米=カナダ)Stormfrontや8kunで気炎を吐くような保守反動の金気臭さ*は薬にもならないが、ネオナチご贔屓のブラックメタルよりもむしろ正統派へービーメタル寄りのズッシリとした挙措動作のリズムと赤剥けの暴力の恐ろしいほどの切れ味は、結構なトラウマもの。前2作のこじれたバロック趣味も悪くはないが、絶賛もしない人間にとって**、今回のtrollらしいシニシズムの計算づくのドライさは好感。悪意に満ちた不意打ちの演出も磨きがかかる [review][投票(2)]
★4殺人者にスポットライト(1961/仏)遺産相続殺人に相応しい、謎と陰謀の目眩くアラベスクを期待すると拍子抜けするが、同じ監督の後年の作品と同様、おとぎの森や湖畔の古城を使って、素朴な幻想の陰画が試みられていることに合点がいけば、見所は事欠かない。 [review][投票(2)]
★4不審者(1951/米)同じ町(あるいは国)で生まれ育った男女が、偶然異郷の一角で逢着し、思い通りにいかない人生を慨嘆しているうちに寂しさ(あるいは別の思惑も・・・)から不倫関係を結ぶ。世界各地でそれこそ夜空の星の数ほどありそうな話だが、それでも魅せるのはロージーの演出力なのだろう。 [review][投票(2)]
★4オールド・ヘンリー(2021/米)それこそ作品全体の命運を決するような唯一無二の瞬間を、神々しく、最高峰に生きるために、物語の山谷・気分の浮沈・話運びの緩急が段取りされているような映画。 たとえそこでしたり顔に下される決断がどんなに陳腐で手垢にまみれていても、肝心な場所でとちらなければ、後々まで尾を引く強い感銘を与えることができるんだなあと。臆面もなくベタな展開なのに、久々に全身粟立った。7.5/10[投票(1)]
★4収穫期(2004/露)見果てぬ大草原の呪いとでも言いたくなるようなものが画面に息づいている。それは時として神の恩寵かと見紛う光の乱舞で人の目を欺きもするが、夜更けとともに悪魔の囁きとなって、眠れぬ母親を空の端が白み始める時間まで悩ましたりする。ロシアの辺境に蔓延る迷信や異端信仰には興味が尽きないものがあるが、理性の堡塁としての家族や共同体が、渺茫たる野蛮の咆哮の前では、風前の灯でしかないことを、本作は赤裸々に抉り出す[投票(1)]
★4ナイト・オブ・ザ・サンフラワーズ(2006/スペイン=仏=ポルトガル)いわゆるラストベルト的な過疎の地方で孤立無援な獲物ばかりを狙って跋扈する連続殺人犯の話は珍しくないが、この人を人とも思わぬ男の薄ら寒さとどん詰まりな状況の閉塞感は鬼気迫るものがある。ピレネーの集落の時間が止まったような佇まいも独特の情趣を棚引かせる。別々の視座から数度に渡って同じ事件の前後談が語り直される構成は、その都度新たな奥行を付け加えるだけでなく、次なる展開の予断を許さないように爪繰られる[投票(1)]
★4スタリー・アイズ(原題)(2014/米=ベルギー)虚栄の都ハリウッドで堕落させられる女優のcautionary taleとしては、後年の『ネオンデーモン』もずっとストレートで迷いがない。またわけがわからん秘密結社ネタが絡むのだが、<敷居>を超えるオーディションの場面でのフラッシュの連射の合間に深まる闇から今にも魔物が出てきそうな気配とか(カーペンター風に)、ヒロインが心身ともに壊れてゆく過程の黏稠性とか(ちょっとアジャーニっぽい)、脳裡に記銘される場面も少なくない [review][投票(1)]
★4わたしの名はジン(2013/トルコ=独)あれは、たぶん、ISがモスルを占拠して間もない頃だったと思う。ネット上に拡散されて、ちょっとしたブームになった一枚の写真(**)があった。まだ高校生にもならない少女が、カラシニコフを肩から下げて、若い母と小さな妹たちの後ろから半砂漠の道をとぼとぼと歩いている姿。背後が心配で仕様がないのか、振り返った拍子にシャッターが切られ、その瞬間が永遠になった。 [review][投票(1)]
★4彷徨える河(2015/コロンビア=ベネズエラ=アルゼンチン)一族郎党を襲った運命の不条理と折り合いをつけるのに、たとえ迷信にしろ、体系的な解釈を必要とするのはギルガメシュの時代から変わらない。そう思わせる悠久の河=意識の流れ。マングローブに覆われた河岸の底知れなさと、緑の壁のように続く樹冠の高み(白黒画面の豊饒さに目を射抜かれる)。聞こえてくるのはオールの立てる音と小鳥の囀りぐらい。異人との邂逅により運命の逆転に掛ける放浪者の悲願。静かだが充実した映画の時間[投票(1)]
★4太陽の爪あと(1966/英)これはむしろ夢野久作や香山滋の世界に通じる、なかなかしんみりとした余情を残す異人悲哀談。肝心の<不気味なもの>の登場まで、ゆうに1時間以上待たされるが、都会の新婚さんが荒っぽい下賤の男達の無知と不埒の洗礼を受ける前振りの部分が滅法面白い。C・ドヌーヴとJ・フォスターの良い処取りしたような清楚系のヒロインの妖精のような俤が、口外無用の奇禍に見舞われた一族の末裔という命運をえらく神々しいものに見せる[投票(1)]
★4眠りなき街(1953/米)レールの上の毎日に嫌気がさした男と年々夢が遠のく一方の下積み暮らしに希望を失う女。そんな二人の落着きのない心が再び自分のもとへ戻る日を辛抱強く待つもう一組の男女。そこに悪魔の奸計が働いてお決まりの悲劇を手繰り寄せる。他人事と思えないこの因果。[投票(1)]
★4荒野に生きる(1971/米)ヒューグラスの脱神話化。悩める父を演じて人間味は増したが伝説の西部人のアウラが剥ぎ落とされた。<明白なる使命>の権化のような口吻で捲し立てるJ・ヒューストンが最後の最後でほろりと見せる安堵と羞恥の綯い交ざった笑顔が意想外の清々しさを残す7/10[投票(1)]
★4襲われた幌馬車(1956/米)コマンチかぶれのお尋ね者をガイドにアウトドアのABCが学べるワンダーフォーゲルの合宿のようなウェスタン。夜中の川遊びの思いつきが運命の分かれ道になる下りが佳境。うぶな若者達の前で二言目には先住民の風習を擁護し始めるウィドマークが可笑しい 7/10[投票(1)]
★4掟によって(1926/露)春の到来とともに氷河が融解して、ぐるぐると流氷を漂わせながら氾濫してゆく一方の河畔の掘っ立て小屋に閉じ込められた生存者たちの心許なさが圧倒的! [review][投票(1)]
★4TAR/ター(2022/米)ChatGPTが自動生成したような、#MeTooの"リベラル"、あるいは、やんわりとanti-wokeなカリカチュア(デイヴ・ルービンとニコラス・クリスタキスの対談を思い出した)にはどうしても苦笑が漏れてくるが、アントン・シガーやレクター博士に比肩するブランシェットの怪演は、物陰に屈んで「斑点のついた黄色いナシを食べながら、崇拝」したくなるようないじらしさがある。おかげで翌朝の夢の中までリディア・ターの化身に苛まれた[投票]
★4パワー・オブ・ザ・ドッグ(2021/米=英=ニュージーランド=カナダ=豪)このニューエイジのグルのような風采の監督とはこれまで御縁がなかったが、これは楽しめた。サザンゴシック仕立の面従腹背を雄大な西部の孤絶した山峡へ持ち込み、クリスティ的な目隠しの不穏さと燻製ニシン添えの捻りを加える。サバイバリストのメッカと評判のモンタナが舞台なのも政治的慧眼。キャラの使い分けに歯切れの悪い部分もあるが(特に後半の弟の空気感)、フィルのホモエロチックな色気は女流監督ならではの艶かしさ[投票]
★4メクトゥー・マイ・ラブ カント・ウノ(原題)(2017/仏)セット*!ニース!学生と観光客と地元のすけこましが糸目もあらわに入り乱れる夏のバカンスの昼下がりと夜通しの馬鹿騒ぎの肉迫が生々し過ぎてとても冷静に見ていられない**。やはり、この人の映画は、褐色の肌に映える白い歯の微笑と南仏の抜けるような青がよく似合う。毎回、お約束のように意中の人をいけ好かない仲間に目の前で掠め取られる主人公が、昼過ぎまで悶々として寝床で過ごす下りは世界の映画青年に捧げられている? [review][投票]