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[コメント] 告白(2010/日)

原作のいい部分を最大限に映画に転用している。欠陥もまた原作の持ち味であって、視点を変えればまた違った愉しみも出てくる。
shiono

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







こんな話を額面通りには受け取れないよねぇ?というのが原作小説読了後の感想であり、それだからこそ逆にエンディングに込められた作者のメッセージが伝わってきたのだが、つまりこれはブラックユーモアなのだ。空の実景などを見ても明らかにガス・ヴァン・サント『エレファント』のリリシズムを意識してはいようが、映画でいうならコーエン兄弟やファレリー兄弟の作品世界により近い。

小説の叙述スタイルである、章立てで視点人物を換えた主観描写による語りの図式(地の文が存在しない)というトリッキーな文体を、教室を筆頭とした芝居小屋という舞台装置で実現しているのはさもありなんという感じだが、カーブミラー等の額縁映像やスポット照明によるロケーション撮影もまた十分使いこなせている。カッティングのリズムとサウンドトラックの使い方のうまさ(洋楽でまとめたのは成功要因)も作品に貢献しているのは明らかだ。フラッシュバックとヴォイスオーバーがこの原作には必須であるし、ヒッチコックのようなファルス・メモリー(事実に反する回想シーン)も加えたケレン味溢れる演出は中島監督ならでは。脚本も書いているのだから流石だ。

芝居演出では、教壇というものが一種の舞台装置であるから、松たか子のオーバーアクトも気にならないし、それでもギリギリ抑えるところは抑えた節もある。家庭が、家族ではなく部屋という箱に過ぎないのだから、木村佳乃についても同じことが言える。それにしても、HIVウィルスからの連想で『28週後』のような映画とリンクするコンビニシーンもまた悪趣味でよい。ここは笑うところですよ。

子役では橋本愛がいい。教室で後ろ手に縛られて西井幸人とキスをさせるところなど、俯瞰カットを挿入したりして危険な香りがする。この両者のロマンスシーンを清純かつ際どく描くというのは演出家の役得だろう。殺害直前のフェティッシュな匂いとか、引きずられる死体というのはタランティーノ・オマージュだろうか。

クライマックスの爆殺をニコラス・ローグ『マリリンとアインシュタイン』のような映像エフェクトで見せているが、炎から再生される黒田育世のヴィジュアルには心打たれた。そこで切らずに体育館まで持っていったのも今考えるとよい判断だった。空イグアナさんのレビューの通り、この爆殺もファルス・メモリーであるかもしれないのだ(そこが小説には出来ない映画ならではの醍醐味)。だが私はもっと大きく括って、「なーんてね」はこの映画全体にかかっていると解く。海外マーケットに持っていっても買い手がつくんじゃないかという現代日本映画の怪作。大満足だ。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (6 人)るぱぱ DSCH[*] 空イグアナ[*] ぽんしゅう[*] けにろん[*] セント[*]

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