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[コメント] ダークナイト(2008/米)

「正義」に不信を隠しえない時代の「暗闇の騎士」の背中には、所詮現代にその立脚点を持つことのできない道化の悲哀がにじみ出でる。
水那岐

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







ヒース・レジャーの欲望に忠実な悪党ぶりは、あるいは前ジョーカー役のジャック・ニコルソンを越えていたかもしれない。それは、レジャーの人物造形が現代らしい犯罪者を描くに相応しい匂いを発していたからだ。ゆえに彼は哀れなティム・バートン版の悪党の影など微塵も感じさせない。その姿は求道士的ですらあったりもする。

むしろその例えに相応しいのは、アーロン・エッカートであったろう。前シリーズで怪人トゥー・フェイスとなり悪に寝返ったことを充分に説明されなかった「光の騎士」が悪党に成り下がった経緯には、愛するものを自らの手で庇うために、犠牲者になるのも厭わない正義の徒の過去があった。その彼がコミックに登場する「悪党のひとり」に堕落しきる前に止めを刺したのは、自分にとってはこの物語の良心と映った。

しかし、さらに輪をかけて悲壮な男が報われぬ「闇の騎士」バットマンである。正直な話、その拳だけで武器と成すバットマンは過去の産物であり、無差別爆弾テロの時代に生きるべきではない男である。彼はあまりにも非力に描かれ、誰も救うことは出来ず悪人だけを成敗する「正義の味方」の成りそこないだ。その黒い仮面が、彼をゴッサムを蝕むほかの悪人達の列に並べたがり、クリスチャン・ベールはその穴の淵でもがく。全く残酷な話であるが、このまま彼が地獄へと転げ落ちてゆく様を黙ってみていたくなった。つまりは、自分の愛した御伽噺的なバートンのバットマンを、リアルの中で悶え苦しむノーランのバットマン物語に読み替えることで、見事に現代社会は浮き彫りにされてゆくかを自らの目で確かめてみたくなったのである。さあ、凶か吉か。

(評価:★4)

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