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[コメント] 雲のむこう、約束の場所(2004/日)

観なきゃよかった。
イリューダ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







以前からネット上で公開してたパイロット版はすごく好きだったんですよ。何度も繰り返し楽しませてもらいました。それで満足してりゃよかった。はっきり言って新海誠監督は、物語を語ることに向いていないと思います。

新海監督の前作『ほしのこえ』は、高橋しんのマンガ「最終兵器彼女」とか、秋山瑞人の小説「イリヤの空、UFOの夏」などとともに、最近マンガやアニメ、ライトノベルなどに氾濫する「セカイ系」と言われる作品群の代表作とされていました。「セカイ系」とは、簡単に言えば、社会や国などの中間共同体をすっとばして、個人の内面がいきなり世界の運命と直結してしまう、という内容の作品群のことです。本作もその定義がそのままずばりあてはまる、「セカイ系の中のセカイ系」とも言える内容です。しかしねえ…。

自意識たれながしの独白やナレーションが村上春樹(そういえばこの人は「セカイ系」の元祖ともいわれる人ですね。本作でも「アフターダーク」の表紙がチラッと出てきたし、パイロット版には「海辺のカフカ」が登場していました。)の劣化コピーみたいなのはまだ許せるとしても、驚くのはその圧倒的なまでの「会話」の魅力の無さ。中坊同士の下らないバカ話や、滑稽だけどどこかせつない恋愛話なんて、もっとも作家の腕がなるところじゃないですか。前述の「イリヤの空〜」はここがものすごくうまかったんです。なんでもない日常をすごく魅力的に書いているからこそ、それが失われるときの喪失感につながるわけですね。ところが本作ではそれが全くといっていいほど、無い。ヒロインの「現実とつながる唯一の絆」が主人公たちとの「約束」だったという物語の展開にも、全く、全然、これっぽっちも説得力が無い。だって彼らがそんな特別な関係になる過程がちっとも描かれていないのですから。印象的なエピソードなんて、ただ駅舎から池だか川だかに落ちるあのシーンだけじゃん。これでどうやって感情移入しろというのでしょうか。

おそらく新海監督には描きたい「絵」はあっても、語りたい「物語」などないんでしょう。それが前作『ほしのこえ』が予想以上に褒められまくってしまったために、勘違いしてしまったのではないでしょうか。本作も本来の構想では短編であったといいますし。新海監督の「画面」を作るセンスは、確かに非凡なものがあると思います。このままスポイルされてしまうのは惜しい。 余計なお世話かもしれませんが、お話づくりは他の人に任せるか、かつての『彼女と彼女の猫』(個人的には、彼の作品の中で一番好きです。)のような、「物語」ではなく「感覚」を切り取る作品に戻るべきだと思います。

(余談ですが、渋谷シネマライズの客層がいつもと明らかに違ってて面白かったです。)

(評価:★1)

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