[コメント] 真実(2019/日=仏)
母娘の確執をベルイマンのように深刻に掘り下げるのではなく、是枝裕和は煮詰まった対象からまるでズームアウトしてゆくように、成長という“留まらぬ時間”と“変転する記憶”を視座に取り込むことで「真実」と「虚構」の幸福な相互扶助関係を醒めた目で俯瞰する。
**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。
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ファビエンヌ(カトリーヌ・ドヌーヴ)という女と保つべき距離を会得しているかのように彼女を取り巻く男たちが映画のギスギス感を程よく中和している。さらに、劇中劇の母親が“定点”となって、娘がその周りをスパイラル状に成長するSF映画が効いている。
現実世界では、当然だが母と娘と孫娘の年齢の差は絶対に縮まらない。しかも、厄介なことに“その年齢”になったときに、人は“その前の年齢”の感情を美化しているか、ともすると忘れてしまっている。「虚構」とは、そんな永遠の溝を埋めるための知恵であり、「真実」とは美化と忘却の都合の良い言い訳のようなもの、でしかないのかも知れない。
いちばん純真で素直な(はずの)孫娘が、虚構を仕事にするシナリオライターの母親(ジュリエット・ビノシュ)に嘘をつかされる。虚構を生きたことをはばからない老練な祖母は、孫娘の嘘にころりとだまされる。積年の虚構が図々しさとなって貼り付いた(地のままのドヌーブ)のような祖母の顔に無防備な笑みが一瞬はしる。そんな虚構の効用を知った得意げな孫娘の大人びた笑み。
ときに杓子定規な「真実」よりも調子の良い「虚構」の効力を信じるのが“映画”とその“ファン”、というオチ、だったりして・・・。
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