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[コメント] ゼロ・ダーク・サーティ(2012/米)

どうにも白黒はっきりしないのは、二項対立で割り切ることの安易さ批判ではなく、白にも黒にも「いい顔」したいというキャスリン・ビグローの八方美人根性のせいにみえる。『ハート・ロッカー』のときも感じたが、この人には当事者意識が欠けている気がする。
ぽんしゅう

当事者意識というのは、本人の意志にかかわらず自分がアメリカ国民であるかぎり、イスラム過激派にとって抹殺してしまいたほど憎まれている存在であると自覚することである。さらに、アフガニスタンで兵士のみならず一般市民の命を奪うアメリカ兵や、捕虜を虐待し辱め拷問にかけているCIA部員は、自分の代理人であるという自覚だ。

ビンラディン襲撃シーンがすごい。突入する兵士たちの、なんと非人間的で醜悪なこと。まさに憎悪と使命感だけをプログラムされた殺人ロボット集団のようだ。人間的な感情の欠落した残虐行為を、キャスリン・ビグローもまた何の感情移入もなく淡々と撮りきっている。ここまでドライな襲撃シーンを持った映画はあまり記憶にない。

このシーンの恐ろしさは、身も凍るほどの冷徹な組織(国家)批判のようにみえるのと同時に、兵士たちの蛮勇に驚喜乱舞した人間(国民)が大勢いたであろうと察せられる二重性にある。換言すれば、こんな無自覚で無責任なシーンを平然と撮ってしまうところに、キャスリン・ビグローの当事者意識の欠落の罪深さを感じる。

このビンラディン襲撃シーンは、サム・ペキンパークエンティン・タランティーノらに代表される、あまたの自覚的バイオレンスとはまったく異質であるという点で、奇怪な名シーンとして映画史に記憶されるだろう。

相変わらず、ハリウッドのメジャー監督らしからぬメリハリのない語り口にも、ちょっと苛らつく。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (5 人)ゑぎ[*] けにろん[*] Orpheus[*] シーチキン[*] 緑雨[*]

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