[コメント] 蝶の舌(1999/スペイン)
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アメリカが参戦した、というニュースから後は、えーこういう映画なの?!となんの予備知識もなかったので、ちょっと唖然としました。先生が退職するとき市長が堅い挨拶抜きで心情込めて抱きしめる。先生の挨拶は「自由は死なず」てな信条告白でなかなかやるな、と思う。例のトリを送った町の有力者が子供の手を引いて出ていく。戦争ってのはこういう風に始まるんだと思う。
夫の党員証なんかどんどん燃やしちゃう奥さんがいかにもそうだろうと思う。ともかく生きなくっちゃ、というのは女の人の本能みたいなもんですね。だんなはなんだかうなだれててこれもそうなるんだろうな、と思う。「先生に服を作ったなんて言っちゃだめよ」とお母さん。「でも作ったよ」と少年期最後の抗議も「作らなかった」と復唱させられる。そしてラストの例の花の名前と「蝶の舌」と叫んで先生の乗る車へ石を投げるシーンとなる。さあ、どういう解釈、どういうメッセージを込めて収めるんだ、と息を詰めてみていると、これが微妙なストップモーションで終わる。
ペペロンチーノさんのご指摘通りで特に付け加えることはない。だがなあ、解決をつけずに終わりしたところに人生と芸術に対する監督の判断を見た思いがした。
イニシエーションが強調されると、きれいなだけの成長物語になってしまう。少年が仕方なくそう叫び、先生がそう言う子供を許す話だと安易なプロパガンダ映画になってしまう。そういうこともあると事実だけを投げ出したにしちゃあそれまでのエピソードに手をかけすぎている。
モノクロの少年の表情はくやしさも快楽も子供らさしもなんだか意味づけることを拒否しているように私には見えた。ただ見開いた眼にはある印象を受けた。ともかく起こったことはすべて見るんだという監督の意志をあのラストの表情に仮託したように思えてならない。まずはそこから始まってそこで終わるのが表現者の使命である、と言いたいんだと感じた。というかそういうところが私のなかでの納めどころだった。
それにしても日本は戦争に直接荷担せず60年近くが過ぎたんだと思う。もちろん私もその圧力を日常生活で感じる(つまり家族との関係で判断を求められるてな状況)ことはない。そういうことがなくて良かったと思う反面なんだかいい加減なところで世渡りしているウソ寒い印象も背中あたりに感じました。
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