[コメント] スターリングラード(2001/独=米=伊=アイルランド)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
言い訳めきますが、ちょっと予感がしてもう一度見なおしたら、これが実に素晴らしい映画でした。
最初観たときは、迫力ある戦闘シーンや狙撃シーンはともかく、それを縦糸として繋ぐヒューマンドラマの部分が、よさは感じさせるものの、駆け足で端折り過ぎに思われ、そこに中途半端さを感じていました。だがよく注意して観ていると、最低限必要な要素はすべて詰め込まれており、逆によく練られた無駄のない優れたストーリー構成だと感心いたしました。
戦場でターニャ(ワイズ)とヴァシリ(ロウ)が2度目に出会うシーンでも、ターニャが「私、あなたの顔に見覚えがあるわ」と言ったら横からサーシャ少年がすかさず「あの有名なヴァシリ・ザイツェフだよ。新聞で顔写真を見てるでしょ」的なことを言うので、なんとなくその場はそんな感じになりますが、あれはターニャも最初に貨車の中で目線を合わせたときのことを思い出していた、という意味だったんですね。初めからヴァシリに好意を抱いていたという訳ですね。あとでヴァシリが、実はここにくる貨物列車の中で、君に会ったときから云々と、告白するシーンがありますが、あのとき何も言わず頷いていたターニャの笑顔の意味は、私も覚えていたわよ、ということだったんでしょうか。
だからダニロフ(ファインズ)にはもともと勝ち目はなかったんですね。もちろんターニャも、同じユダヤ人・同僚として、ダニロフに仲間意識は持ちますし、ラスト近く、サーシャの母親に気遣いを見せるダニロフの掌を優しく握りますが、あのシーンが示しているのは、友情以上の何物でもなかったわけですね。
そして、ケーニッヒ少佐(ハリス)との一騎うちの直前、怖気づいて身動きできずにいるヴァシリの側にダニロフがやってきて、「ターニャは即死した」と告げるシーン。その前段で、いかにもターニャは生きているかのような伏線が張ってあったので、初め観た時もおかしいな、とは感じていましたが、あれはダニロフがわざと嘘をついたのですね。少なくとも「即死」はしていなかったわけですから。字幕では確か「即死」だったと思いますが、英語ではもっと嘘だとわかりやすい表現だったのかもしれません。なぜ、ダニロフは嘘をついたのか。ヴァシリに対する嫉妬からか、ヴァシリの闘争心に火を点けるためか。たぶん、両方だろうな。
映画中、ヴァシリが遠方の物影に潜む「敵」を発見するシーンが何度かあります。その都度、カメラはヴァシリの視線の先を映し出すのですが、私には一度も「敵」を発見することはできませんでした(実際に映ってなかったのかもしれない)。ユシルア氏の言うとおり、これがヴァシリの狙撃手としての索敵能力の高さを描いているのだということは、2回目ではじめて気づきました。ラストシーン、野戦病院の人ごみの中で、ダニロフはターニャの「生存」を発見します。カメラはその視線の先を映しますが、私は、やっぱりそこにターニャを発見することができませんでした(半ば、予想していました)。しかし、「あの索敵シーンはここに結実するのか!」と、その技巧の素晴らしさにほんとに感動し、もちろん映画ですから、この熱き恋愛をする二人をアンハッピーエンディングで終わらせるわけもないのですが、最初に観たときはその熱さがわからなかったがゆえに、なんとご都合主義な終わり方なんだろう、と思ってしまった自分の未熟さを、心底痛感した次第です。
まだまだ修行中の身ではございますが、金払って観るのですから、映画をいい加減に観ていたら損するな、と反省しきりでございました。
2度以上の鑑賞に耐えうる傑作だと思います。1度観てつまらないと思った方もぜひもう1度観てみてはいかがでしょうか。
85/100 (01/11/08書直)
************書き直し前のreview************
スターリンの名がついてるからという理由で(それだけじゃないのだろうけど)、ここまで犠牲を出して攻防した“スターリングラード”も、いまや帝政ロシア時代の“ボルゴグラード”に戻っちゃってるからなー。歴史の皮肉を感じる。
原作読んでない(あるのかどうかも知らん)のでよく分からんが、ヴァシリ(ジュード・ロウ)とダニロフ(レイフ・ファインズ)とターニャ(レイチェル・ワイズ)の三角関係の部分はだいぶ端折っちゃったんだろうな、と感じた。あと1時間くらい長くしてもいいから、ターニャとの愛を知った後、ヴァシリが仕立て上げられたヒーローでいる自分に抵抗を示すところを、もう少ししつこく描いてくれたら、もっといいドラマになったのに。
2人(ヴァシリとダニロフ)が、突然出会ったターニャという美しい娘を意識し、自分のいい所を見せようとしてギクシャクするシーンなんて実に巧かった。その後ターニャがヴァシリに対して徐々に想いを寄せていくところも、合間合間に描かれてはいたが、さすがに××での×××シーンはちょっと唐突だよな。そんなとこでおっぱじめんなよ!という感じだけが残る。
下の方のコメント見ると、完璧ではない映画を、徹底的にこき下ろしてやろうと手ぐすねひいて待ってる人たちの、格好の餌食になってしまった感がある(はっはっは)。
ジュード・ロウ、レイチェル・ワイズ、エド・ハリスの、三者三様の「射るような眼差し」に凄みを感じた。
75/100(01/07/20見)
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