[コメント] マイレージ、マイライフ(2009/米)
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クルーニーを軸として、ヴェラ・ファーミガ、アナ・ケンドリック、および解雇される社員たち、それぞれの対話には、具体的な言葉で相手を説得する対決の構図がある。口説き文句でも深刻な問題でも、言葉と表情で議論を濃密に見せるいいシーンが頻発する。
とりわけファーミガとの恋の駆け引きのプロセスはうまい。彼女は、旅先を非日常な時空間としてアグレッシブに楽しんでいるが、翼の上に住むクルーニーにとっては旅が日常である。フライトとレンタカーとホテルという、重力からも所有物からも自由な人格は、プラスチックのカード類に象徴される。だが、妹とその婚約者もカード化して持ち歩く一方で、クルーニーは肉体という実態をアメリカの各地に移動させる、旧世代の安心感をも併せ持っている。
『トワイライト』でヒロインの親友役を演じているケンドリックは、本作では自分が吸血鬼であるかのような青白いメイクと堅苦しいスーツで武装している。無慈悲なITの使い手に相応しくもあり、本人の将来設計とのギャップが滑稽でもあり、年長者が庇護したくなるキュートなところもある。暖色で肉感的なファーミガとの対比がいい。
終盤、クルーニーに感情移入させておいてファーミガの家庭を見せるサプライズはよかった。旅先での虚飾は暗黙の了解事項というのがオトナのマナーである。むしろクルーニーが世間知らずなのだが、浮世離れしたキャラだから致し方ない。助言を必要とする人々は助けることができるが、それを必要としないファーミガからは必要とされない、そういう存在がクルーニーである。アメリカにはまだまだ彼の助けを必要とする人物が各地に待っているし、その数だけの仄かな希望もきっと存在するのだろう。
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