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[コメント] Dr.パルナサスの鏡(2009/英=カナダ)

やはりジュード・ロウ登場パート周辺以降、映画が混乱を抱えている印象を受ける。作風が作風でもあるし混乱そのものは大いに結構だが、それが必ずしも生産的な混乱だと思えないのは、映画と観客が物語のルールを共有できていないからではないか。物語展開および観客の感情に楔を打つべき描写が漫然と流れている。
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イマジナリウム内のイメージは絵解き風の安っぽい精神分析のようでよろしくない。この程度でイマジネーションの奔放さを謳われてもしらけてしまうだけだ。一方で、文字通り(視覚的に、と云うべきか)「暗闇」に支配された現実のロンドンの情景はよい造型だ。この妖しさのほうこそがむしろ映画らしい。私が最も気に入っているのはオープニングからヒース・レジャーが一座に加わるあたりまでの一連のシーンであるが、それは以上の理由とともに、華やかさを演じなくてはならない貧乏旅芸人のわびしさがよく描かれて切ないためだ。『ブロンコ・ビリー』や『浮草』を愛する者にはそれだけで坑いがたい魅力があるのだが、それがその二作品のようにいかにもどさ回り然とした「地方」ではなく、(少しく幻想的でもある)「現代ロンドン」を舞台にしているのだからユニックでもあり、嬉しくなる(かと云って大都市であることを印象づけるようなロケーションはほぼ皆無で、うらぶれ気味の風景が積極的に選択されているのがまたいい)。移動式ステージのからくり仕掛けも楽しく、とりわけ冒頭、酒場の近くでステージが広がってゆく光景は一気に観客を映画に引き込むだろう。

私が見た限りでは久々にトム・ウェイツが大きな役をもらっているのもまたとても嬉しい(『人生は、奇跡の詩』は決して上出来の作品ではありませんでしたが、ウェイツの出演シーンに限っては掛け値なしにすばらしく、それだけをもっても私には大事な映画です。『ドミノ』への一瞬だけの出演はいまだに謎ですね)。ウェイツは常に創造的な俳優だ。つまりは個性ということだけれども、彼が演じた稚気に溢れた悪魔はこの映画でも最もチャーミングなキャラクタだと思う。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (7 人)緑雨[*] ぽんしゅう[*] けにろん[*] 月魚[*] プロキオン14[*] ペペロンチーノ[*] セント[*]

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