[コメント] 崖の上のポニョ(2008/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
海の生物を淡水に入れたら死んでしまうというのは、海沿いに住んでいる子供ならば知っていて当然の常識だと思います。海沿いに住んでいない私でも子供の時にそれくらいのことは知っていました。 百歩譲って「子供だから知らなくて当たり前」でもかまわないのですが、それなれば大人の立場として「海の生物は塩水じゃないと生きられないよ」という大人のアドバイスが、子供に見せる映画として当然必要だと思うのです。
「そんな細かいことは些末な事じゃないか、もっと素直に映画を楽しめよ」という考え方もあるので、一生懸命素直な気持ちで鑑賞しましたが、どーにもこうにも感情移入できない。そりゃ30台後半のおっさんが5歳の子供に感情移入しろってのも無理な話ですが、それにしてもおもしろくない。なんでおもしろくないのか考えていても、支離滅裂なストーリー展開によけいに混乱するだけ。まあ、画面クオリティだけは異常に高いのでそれを見てるだけでもそれなりには楽しめますが。
宮崎作品のなかで、ストーリーが単純で子供向けのアニメということで同じような作品を探すと「となりのトトロ」があります。内容は森の不思議な動物とのふれあいをメインとして、冒険(お話)の軸はお母さんの病院に行くことだけ。奇しくも目的が「お母さんの病院に行く」ことはポニョと全く同じです。
私の感想としてはトトロは無茶苦茶楽しめましたが、ポニョは全く楽しめませんでした。
同じようなタイプの作品なのに何がちがうのか?
トトロとポニョの決定的な違いは子供目線と世界の描写のリアリティだと思っています。 トトロを最初見たときに「大人がこれほどまでに子供視点で世界を見ているというのは驚異的な事だ!」ともの凄く感心しました。
森の中にあるバス停で、雨の中傘をさしてお父さんを待っているときの特徴的な描写に「雨だれ」があります。 一度でも雨の森を傘で歩いたことがある人はわかるのですが、森の中だと雨は大粒で不連続なタイミングで降ります。そのリズムは時に遅く、時にザーッと落ちてきたりします。 森の中の雨だれなんて大人になったら何とも思いませんが、子供のころはその不連続なリズムがちょっと不思議に思ったものです。
「雨だれ」なんて些細な事なのかもしれないのですが、トトロでは子供の視点でそのちょっと不思議な感覚を実に分かりやすくおもしろく描写しています。 森の中を歩くちょっとしたドキドキ感とか、植物の種をまいたときのワクワク感とか、自分が子供の頃に持っていた感覚がトトロを観ると不思議に呼び戻されます。
じゃあ翻ってポニョにそういうシーンがあるかのかと。 海を舞台としているのに、海水を舐めたときの塩辛さとか、海風の塩臭さとか、大波の怖さ(私は子供のころ九十九里で大波にのまれて溺れたことがある)とかの描写がありません。 母親のリサに至っては、地元の人が「波が高くで危険だ」って言うのに振り切って暴走する始末です。(あんなことをしたら千葉の海では漁師のオッサンにボコられる)。 ポニョには世界としての海にリアリティがありません。やりたい場面を構築する装置としてだけ海が存在しています。
まあ、なんというか海を舞台としているのに海っぽくない。というか海が淡水みたいなんですよね。
私が好きだった頃の宮崎アニメってそういうことまでキチンとしていたと思うのです。 なんか今回は「友人の死」や「母の死」などおよそ子供向けアニメにそぐわない「死」のキーワードが監督の頭を占領してしまい、そういったディテールまでに気が回らなかったようです…。
しかし、黒澤といい宮崎駿といい、やはりジジイになると往年の作品を望むのは難しいのかもしれないですねぇ。
(評価:
)投票
このコメントを気に入った人達 (9 人) | [*] [*] [*] [*] [*] [*] [*] [*] [*] |
コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。