[コメント] 秋日和(1960/日)
初の小津組ながら、名だたる常連俳優達を、まさに寿司を頬張るかのごとく一気食いしてしまった岡田茉莉子の弾けんばかりの魅力。これを観ると「4番バッターは杉村さんだが、1番バッターはお嬢さんだな」と語った小津の思いがよく分かる。
**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。
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サイレント時代の小津作品に出演し、個人的にも仲がよかったという岡田時彦を父に持つ彼女のことを小津は「お嬢さん」と呼び、最晩年、病床においても彼女に会いたがったというエピソードからも分かるように、小津は彼女を大変気に入っていたのだと思う。その思いがフィルムから本当によく伝わってくるし、彼女の魅力はこの作品に小津の映画には珍しい弾けたような若々しさをももたらしている。その弾けたような若々しさと、彼女を「最近の若い人」と呼ぶ佐分利信、中村伸郎、北竜二ら3人の還暦男たちとのバランス感覚が絶妙で、ややもすればいやらしくなるような題材がごくごく自然な形の軽喜劇に昇華されているところがすごくいい。
しかしそれを単なる軽喜劇で終わらせないところが小津の小津たる所以で、誤解をし、家出を図る司葉子を激しく見据える原節子のショットなどは本当に震え上がるほどの迫力だし、また、親子最後の夜に布団の上で両手で顔を覆い激しく泣き崩れる司葉子に対し、原節子が片手でそっと涙を拭うなどというシーンは、かえって涙を誘われてしまったりするから困ったものだ。
さらに最初と最後の大事なシーンに笠智衆をしっかり起用したり、最後の最後を原節子の微笑みで締めるなどというところにも小津のしたたかな計算が感じられ思わずニンマリしてしまった。
こういう作品は撮れそうで撮れないものだ。ゆえにこの作品にも文句なしの満点を献上したい。
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