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[コメント] 天然コケッコー(2007/日)

とりわけ前半部分にいいシーンが多い。初日下校時の移動ショットを始め、画面の手前と奥で同時進行する芝居のおもしろさ。魅力的な縦構図は橋、線路、トンネル以外にも随所に出てくる。
shiono

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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大雑把だが、横構図は空間的、縦構図は時間的広がりを感じさせると言えるのではないだろうか。地縁血縁に囲まれて育った少女が、恋愛の喜びを通じて自我に目覚める、というジェーン・オースティンの世界を豊かにするためには、この空間的時間的広がりの中に、土地の文化風土を巧みに織り交ぜることが不可欠である。

ここには、優しい響きの方言による会話、人と自然が調和した校舎といった心地よさだけではなく、自殺者の橋、キスをした神社のような、生者を守りもすれば戒めもする、この世のものではないものの気配もまたさりげなく存在している。

ことに夏祭りのシーンはうまい。ヤマタノオロチの出し物でそよが泣き出したのは、好きでもない男と二人きりにされた心細さだけではなく、連綿と続く郷土史の奥の深さを垣間見た畏怖であり、それを体現する郵便局員シゲちゃんの、懐に忍ばせた威圧感のせいでもある。彼はその表情に土地の因習を背負わせているようで怖い。

前半部分の周到な基礎固めにより、後半の現在進行形から未来へのドラマが生きてくる。大沢広海の進路にしたって、ただの恋愛要素だけではない、彼の家庭の経済的事情も読み取れる。廃校を予感させる校舎の佇まいの儚さもまた、情緒に頼ることなく見せているので心に響く。

この作品や『奈緒子』『人のセックスを笑うな』といった、スタジオシステムが機能していた頃の日本映画の雰囲気を感じさせる普通にいい映画が、若い監督たちによって撮られている状況は歓迎したい。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (6 人)ジェリー[*] sawa:38[*] おーい粗茶[*] 3819695[*] 林田乃丞[*] ぽんしゅう[*]

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