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[コメント] 天然コケッコー(2007/日)

これが「歩行」の映画であることに異論を挟む者はいるまい。
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**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







とにかくよく歩くのだ、夏帆をはじめとするこの映画の子供たちは。山下敦弘がここで「歩行」を主題のひとつに据えているのは間違いないだろう。その歩行の様は時に安定感のあるフィックスショットで、時に歩行者に寄り添うような柔らかな横移動撮影で捉えられているのだが、山の鳴動とビルディングの鳴動というあからさまに対照的かつ対称的なふたつの歩行のショットが示しているように、主に修学旅行以前の歩行は画面の左から右に、修学旅行以後の歩行は画面右から左に向かって行われている。だから何? と云われればそれまでの事柄だが、山下が身体の運動や姿勢に関するディレクションに固執していることの証左にはなるだろう。夏帆の「疾走」や「横臥」、殊に心細きことこの上ない東京の駅での「佇立」のショットがただそれだけで感動的足りえていたのは、これら「疾走」「横臥」「佇立」という運動/姿勢が「歩行」という主題との差異において捉えられていたからに他ならない。

いささか牽強に過ぎるかもしれないが、次のことも付け加えておこう。約二時間の上映時間を有するこの映画は、劇中時間としては半年以上もの持続を持つ。にもかかわらず『天然コケッコー』が「性急さ」よりも「緩やかさ」や「穏やかさ」の印象を私たちに与えるのは、この映画の緩やかで穏やかなリズムのためであろう。緩やかで穏やかなリズム、それは即ち「歩行」のリズムである。

(評価:★3)

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