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[コメント] 天然コケッコー(2007/日)

さざ波が立つようなドラマティックな展開が起きない事を願いつつ鑑賞するなんて・・・
sawa:38

過剰なドラマ性が必要無い程に本作の湿度と風に浸かった。映画=ドラマ性だと信じている私ですら、本作にそれ等が邪魔に思えたのだ。本作はぬるい映画だ。悪役も嫌われ役も登場せず、まったりと淡々と日々が描かれる。

登場人物の誰かに感情移入できる訳でもない。私はただ傍観した。鑑賞後に思うに、これは母性や父性といったアングルから傍観、すなわち彼女たち愛しい者たちを見守っているような感覚だったのではないかと思った。

私の家の前では、毎朝子供達が登校の為5-6人のグループを作っていく。背の高くなった高学年の子が前後に立ち、小さな低学年の子を守るようにして列を作る。まとまりの無い低学年たちをまるで牧羊犬のごとく高学年のお兄ちゃん・お姉ちゃんたちがまとめる。低学年の子らが言う、「あと何年経ったら僕も先頭を歩くよ」と。私はこの光景が大のお気に入りなのだ。日本で一番幸せな光景だとも思っている。

本作の光景は素晴らしかったが、そこにはあと何年かで必ず訪れる悲しみが内包されていた。子供達も、校舎も無くなるのだろう。子供達の間に存在しない男女間の温度差も無くなる。学年の違いなど関係のない奔放さも無くなっていくだろう。私達はそんな事を全部知っているから切なくなる。こんな季節はもう二度とやって来ないんだよと、彼女達に教えてあげたい衝動を持って傍観する。

私には本作のような体験・経験は無い。しかし妙な既視感に囚われた。それはこうありたかったというような願望だったのかもしれない。不思議な経験をしたと思っている。登場人物に感情移入もせず傍観していただけなのに、私はこの妙な既視感に浸かり上映時間を幸福な時間として共有してしまった。まるでマジックにかかったかのようだ。

こんな起伏の無い映画にも関わらず・・・だ。そう、これはまさしく「映画」であり、魔法の映画だと思う。

PS.主演の夏帆に萌えただけだ・・なんてことは絶対に無い。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)ナム太郎[*] おーい粗茶[*]

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