[コメント] ザ・フライ(1986/米)
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タイトルバックの、毒々しい色をした温度センサー風の画面に小さな群れが蠢く映像が、実はパーティに集まった人の群れである事が分かるオープニング。機械を通して見ると、人も蠅も同じように見えてしまうというわけで、初っ端から本作がどういう映画なのかが一目瞭然。続いて登場する、主人公セス=ジェフ・ゴールドブラムのギョロっとした目には、いきなり軽いショックを受けた。美形でありながらも、どこか昆虫的なその容姿。彼が後に蠅人間に変貌する悲劇性が、既に最初のクローズアップから感じられる事には驚愕させられる。
ベロニカへの不信と酒の勢いで自ら転送実験を行なってしまったセスが彼女と抱き合い口づけする場面での、セスだけに青い照明が当てられ、ベロニカとの隔絶が視覚的に仄めかされている事には唸らされる。続いて映しだされる、ベロニカが愛撫するセスの背中の傷は、ベッドに放置されていた集積回路が刺さった傷であり、彼が最後に転送装置そのものと融合してしまう結末を予告している。
蠅の遺伝子と融合したセスが、突如として体操選手並みの運動能力を披露するシーンは、先立つ転送シーンで蠅が侵入した事が分かっているだけに、セスが溌溂と運動すればするほど気味が悪いという、ちょっと珍しい感情を味わう事に。
ところで、クローネンバーグはリトアニア系ユダヤ人という事だが、その出自が影響しているのか、本作にはナチスの優生学思想を連想させられる面もある。セスが、転送によって体が浄化された、超人だ、と熱狂する様子や、彼が蠅と融合した事が判明するや、一転、彼の子を身籠ったベロニカが「病気が子に影響するかもしれない」とか「検査をしたって、将来までは保証してくれないわ」と、堕胎に走る事。彼自身も大学で最初は生物学や生化学を専攻していたそうだが、そうした経歴が‘融合’した結果をこの映画に見てとる事は可能だろう。
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