[コメント] ローレライ(2005/日)
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伊507のミッション遂行ストーリーはかなりよく出来ていたと思う。潜水艦内部のセットなどこのご時勢によくぞ作ったと思う。しかも狭い内部でもカメラのアングルは決まっていた。シネスコ画面をいっぱいに使った構図もかっこいい。また戦闘シーンはこちらとあちらの距離と位置関係を明確する画面作りとなっており、観る側に極めて知的なサスペンスを感じさせる。海底の潜水艦と水面の艦隊、潜水艦とロープで繋がった「ローレライ」、砲台と飛ぶB29など・・・。画面構成に説得力があるので、艦隊がCG然としていてもあんまり気にならない。この辺、長年特撮に携わってきた樋口監督は良く分かっている。
しかし思想面(?)を語る東京の方のシーンは別の人間が監督なのかと思うくらい精彩がない。第一、皆軍の制服が似合わない(これはこれから戦争映画を撮る上で最大の問題、この数十年で日本人の顔と体格は著しく変貌した)。そして浅倉の考えはまったく説明できてない。要するに日本をゼロから出発させるために東京に原爆を落とす?ということか。というか、誰がその原爆投下にOKを出したのか?というかなぜローレライをアメリカに売り渡す必要があるのかさっぱり分からない。この二つの行動から推測されるのは浅倉はアメリカのスパイ、ということしか思い浮かばない。しかし本人は憂国の士みたいな振舞いだし・・・。
確かに理想主義者的悪役が、世界をリセットするために最終兵器のボタンを押そうとする、という設定はアニメとかSFにはよくあります。007の悪役にもいたし、最近観たTVアニメ『今日からマ王』にも似たようなこと言ってる人がいました。そしてそういう設定が実際の戦争、ヒトラーの行為や現実の原爆などの蛮行のメタファーであることは往々にしてあります。
アニメが現実の戦争や政治をメタファーとして、政治的な主張をすることがあるのは 私も『機動警察パトレイバー』のコメントで書きました。 しかしそういうアニメとかの極端な設定をまんま現実にあった歴史の中にあてはめちゃまずいでしょう。あまりにも現実感無さ過ぎです。
またストーリーのデティールとして、どう見ても綾波とか、甲板で若いカップルがまったりとか、酒をプハーとか、最後にローレライを放す(これは小説版『宇宙戦艦ヤマト』を連想した)とか、以前アニメで見たような場面が続出しているのを見ると、これは「メタファーの逆転現象」が起こっているのではないかと思った。戦争を暗喩した特撮やアニメを見てきた世代が、本当の戦争を題材にしたら今度は見てきたアニメの暗喩をやりだしたのである。このことを克服しないと、今後の戦争映画には展望が持てない。
ヒロシマナガサキの原爆をCGで表現したり、一方で米軍を徹底的に悪役として描きしかもよく撃沈される(最後のB29撃墜には心の中でグッジョブ!と叫んだよ)のを見て、なんて度胸がいいんだ、と思った。しかし後で考えると、米軍をガミラス(というか彗星帝国?)かSWの帝国軍に見立てれば、別に度胸も必要なかったのかも知れない。
要するに現実の戦争(架空のミッションにしても)を題材に映画を作るには、あまりにも覚悟が足りなかったのではと思うのですよ。何も今井正や山本薩夫の映画みたいな反戦映画作れと言ってるのではもちろんなく、娯楽として撮るならなおさら現実の歴史の重さを受け入れる覚悟が必要だと思うのですよ。メタファーにするなら、それは観て来たアニメや特撮じゃなくて、現実の世界なんですよ。
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