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[コメント] 千年女優(2002/日)

たった一言で物語の評価を変えてしまう事が出来た。という意味では貴重な作品といえます。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 質が高いアニメを世に送り出すことで定評のある今敏監督が、一人の女優を題材に取って描き上げる監督第2作作品。

 本作は先ず、なんと言っても監督の古き邦画に対する愛情に溢れている。そしてそれは記号的、暗喩的に語られるのではなく、極めてストレートに、疾走という形で現れている。とりあえず“現代”とされている時間軸の藤原千代子と立花はかつての時間軸で映画を愛していた。それは“演じる者”と“観る者”の主観の違いこそあれ、二人とも当時の映画を画面の中と外で愛し続けた人間だからこそ分かり合える至福の瞬間だったはず。実際これを観ても、かなりたくさんの名作邦画が出てくる。なんとなくそうだろうな。と思えるのだけでも『君の名は』、『隠し砦の三悪人』(1958)、『蜘蛛巣城』(1957)など。映画だけでなく、藤原千代子という人物の生涯も又、映画のようなもので、それを思い出すだけでなく、いつしか立花までも登場人物となって入り込んでいく。まさにメタ的な楽しさに溢れた作品だ。

 それとこの作品、演出が良い。最初のしっとりした現実世界から、中盤に至る映画の世界(メタ世界と言っても良い)に入ると、途端に場面が疾走していく。まるでジェットコースタームービーのように、観てるこちら側もその流れに飲み込まれ、ほとんど呆然状態でこちらも画面に入り込んでいく。そして最後になると、今度は一抹の寂しさを。ここまでを計算して作り上げたことがよく分かる作品で、それに浸っていた時は本当に心地の良い一瞬だった。

 ここまでなら評価は高いままだったのだが…

 問題は彼女が追いかけていたものは何だったのだろうか?と言うものを、最後に自分で言ってしまった所だった。彼女が追いかけていたのが何であったのか、これは実は観ている側は自分なりに理解できているのだ。それで良いはずなのに、敢えてその一言を言ってしまった事で、物語を矮小なものに押し込めてしまった。

 ここだけは絶対間違ってしまった。

 ここまで気持ちよく浸っていた気持ちに突然冷水を浴びせられた気分になってしまった。

 物語の都合上、すっきり終わらせるためには必要な台詞だったのかも知れない。しかし、それは千代子に悟らせてはならない事実だったのだし、もし絶対にそれを言わせるのならば、第三者を介して言わせるとかの配慮が欲しかった。

 もったいなさ過ぎた。

(評価:★3)

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