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[コメント] フリークス(1932/米)

こいつをホラーとは呼びたくない。そう呼ぶにはあまりに重く、そして悲しい。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 監督のブラウニングは吸血鬼ファンにとってはお馴染みの名前。前年にドラキュラ映画の傑作『魔人ドラキュラ』を世に送り出し、無名の役者ベラ=ルゴシを一躍時代の寵児にした。その監督が次に挑んだ作品が本作。彼が直接サーカスと交渉し、本物のフリークスたちが出てくると言うことで、何かと物議を醸した。当時、あまりにショッキングな内容だったとかで、失神者が続出したとか、上映館はフィルムをズタズタにカットしたとか、様々な問題をはらんだ作品。

 この映画、ホラー映画に分類されることが多いのだが、私はそう思わない。いや、そうであってはならないと思っている。ホラーに必要な演出をほとんど用いず、生の迫力を前面に出してるのは、むしろ純粋なサスペンス映画と言うに相応しい。

 ただ、ホラーでないから怖くなかったか、と言われれば、それも全く逆で、この映画の迫力は、マジで恐ろしかった。特に彼らが雨の中、進み寄ってくる姿の演出方法は見事。本当に夢に出てきそうな怖さだったし、あのラストのクレオパトラのなれの果ての姿…半ば分かっていたはずなのに、あの声を聞いたときは、飛び上がりそうになったぞ。

 ホラーでないにせよ、ここまで恐ろしい思いをさせてくれたこの作品。私にとっての最高作品の一つである。

 この映画、現代では絶対作られないし、作るべきではない作品だと私も思っている。実際にハンディキャップを持つ人物を、殊更怖く描くのは、平等主義が進んだ現代ではタブー(本当は当時のアメリカでさえそうだった)であり、それが一面非常に正しい事は私も認める。ただ、彼らは必死になって自分の力で生きようとしていたと言う事実も忘れてはならないはずだ。それを“差別”だからと言って忘れ去ろうとして良いのか?現代、“保護”の名前の元、彼らを隔離し、自前でなにもさせずに食わせるだけなんて、本当に人生なのか?もし彼らが社会に出ようものなら、もはや彼らの働ける場所はない。それに、身体的特徴を持つ人物の出生率が現代では極端に減っているのをご存じだろうか?…

 “差別撤廃”の名の下に、彼らの仕事や生を奪っていったのが現代の我々の考える“平等”の行き着いたところであることをもう少し考えるべきかも知れない。与えたものも多いかも知れない。しかし奪ったものも多い。何より彼らが自由に生きる権利を奪ったことは、何によって償われるべきなのだろうか?  ちょっと前までプロレスには前座で働いていた彼らは、自らを人に笑わせながらも、鍛え抜かれた身体をはっきりと観客の前に現していた。そこには確かに職人気質あふれる美しさがあった。彼らは確かに格好良かった。そして彼らを締め出したのは”良識ある”大人達であり、それを私たちは“平等”と言っている…

 …

 故にこそ、たった一作しか作られることのないこの映画、私にとっては“ホラーであってはならない”作品となった。そうではなく、“職人芸に徹した本当に怖いサスペンス”だ。そして、敢えて何度でも言おう。これは“最高”だ!

(評価:★5)

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