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[コメント] カムイ外伝(2009/日)

「逃げ、追い続ける」ことの視覚的象徴として、ぎりぎりのところでリアルな肉体感覚を残しながらの、文字通り走るカムイと追忍の「身体」の疾走ぶりがスリリングで好い。一方、その結果として逃げる者の心に巣くったという「猜疑心」の方は一向に伝わってこない。
ぽんしゅう

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







「猜疑心」をめぐる葛藤が後半の見どころになるのかと思っていたのだが、島に着いてからのカムイ(松山ケンイチ)は妙にのほほんとして存在感が薄い。半兵衛(小林薫)のカムイに対する、あるいはカムイの不動(伊藤英明)に抱く、そしてなにより今は同志ですらありながら、抜き差しならぬ過去からの掟の呪縛に捕らわれているはずの、スガル(小雪)とカムイの深く悲しい互いの「猜疑心」。そんな、追われる者が背負い込んだ「心」の動揺がまったく伝わってこない。

いくら、スガルと手に手をとって半兵衛救出に向かおうが、後半の主役を奪いかねない勢いで鮫が大暴れしようが、つたない愛の告白に終始するサヤカ(大後寿々花)が切ない結末を迎えようが、そこにカムイの心に巣くった、自らもいかんともしがたい「猜疑心」がからまないので、話は本筋を離れて拡散し続ける。

カムイの「猜疑心」をめぐる混沌。孤独や寂寥、おびえといった人間臭さがもっと丁寧に描かれるべきであった。そのときにこそ、生まれもって理不尽な境遇を与えられ、それゆえに、さらに理不尽な重圧にさいなまれ続ければならない者の悲しみが浮き彫りになったはずである。

(評価:★3)

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