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[コメント] 機動警察パトレイバー 劇場版(1989/日)

遠方の友人は、帆場が飼っているカラスを、勝手に『ダミアン』と名付けていた。
uyo

不安と恍惚。

この言葉は、アニメーターを目指す若い人に対して、TV番組で宮崎駿が送った言葉です。

DVDに収録された、アニメ「パトレイバー劇場版」には、2種類のアフレコ(声優さん方の演技)が収録されています。その一つは、本来の1989年の、劇場公開時のアフレコ。そしてもう一つは、その9年後に、まるっきり同一キャストで録音し直された5.1チャンネル用のものです。(9年後の同じ演技を聞き比べるなんで、実写映画では味わえない妙なイベントでした)実際にお聞きになった方も多くいらっしゃると思いますが、9年後のものには、9年後の声優さん方の演技の幅や、味わいが加わって、どちらもそれぞれの魅力を持ったバージョンに仕上がっていると思います。

けれど、9年後の録音にどうしても決定的に欠けていると感じずにはいられなかったもの。それが、「不安と恍惚」でした。

当時、押井守と言う監督は、『うる星2』で、ちょっと一発当てたものの、その後の「天使のたまご」「紅い眼鏡」と、立て続けに興行的にこけまくり、「あぶない監督」のレッテルを貼りまくられた(今でも剥がれ(剥がそうとし)ているとは思えませんが)、胡乱で剣呑な存在でした。少なくともそう感じていました。そんな中での、「パトレイバー劇場版」は、送り手にとっては、ひじょーに不安要素の高い作品だったと思います。(単純に言って「受ける(売れる)かどうか」って事です)

まず、決定的に、「キャラクターが超地味」。

浮かれたバブル経済真っ盛り期のアニメーションのキャラクターとしては、あまりみかけない、原作のゆうきまさみの持つかわいらしさ、華やかさを完全に無視し、口の脇、鼻の脇に影を多用した、極めて「おばさん、おっさんくさい」絵でした。プロデューサーの目を「ごまかす」ために、キャラクター設定書はかわいい絵柄にして、実際の原画は全く違ったデザインで描いたと、確かどこかのインタビューで語っていました。原画担当の沖浦啓之は、当時劇場で、見終った観客が、「メカはいいけど、キャラがね」と言っているのを聞いて、「俺の大好きな作品になんてことを言うんだと、殴ってやろうかと思った」と、後に「人狼」のインタビューで述懐しています。

それから妙な沈黙による間合い(セルの節約のため)、変な犯人、古臭い背景。(長くなるのではしょります・・・・ごめんなさい。私は長いのはいいんですけども・・・)

こんな作品受けるのか?大丈夫なのか?・・・・そういった不安に終始取り巻かれながら、しかし、無難な出来には決して陥るまい、と、なんとかこらえながら必死に革命的な物を生みだそうとしている、その恍惚の瞬間。それは、作品の魅力の、大きな一つの源であると思います。

「世界の押井」でもなんでもなかった頃の、胡散臭い監督が作った、胡散臭いアニメ映画。私は最近個人的に、この監督に「面白い作品」と言うものはあんまり求めてはいません。「今まで見た事のないもの」を、見せて欲しいと思っています。

ながながと読んで下さってホントウにありがとうございました・・・。それにしても、押井初心者の方に判っていただけるようにと書き始めたのに、めちゃめちゃ読みにくいやん!初心者読まないこんな長いの。旧知の方には、多分あったりまえの事しか書いてないような・・・。(でもホントはもっと書きたかった)修行しま〜す。

(評価:★5)

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