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[コメント] 第9地区(2009/米=ニュージーランド)

もっと「クソ喰らえ!」でもよかったんじゃない?
おーい粗茶

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







自分の惑星に見捨てられた男が異星人の相棒とともに故郷からの追手と死闘を繰り広げるという、まさに古き良きSFの王道。男=ヴィカスが異星人と手を組む理由が完全な自己都合。あんた一人で母船に戻ったところで自分の体の異常を治すことが可能なのか?と思ってしまうのだが、もうお構いなしで相棒クリストファーをあっさり見捨てていき、あげく撃墜されて呆然としているところが最高に愚かでいい(20年の苦労が一瞬で水の泡となったクリストファーの諦念の「表情」がまたよい)。

この作品からは南アフリカ発グローバリズムへの恨み節がひしひしと伝わってくる。この映画で一番好きなのは、変質の始まったヴィカスが異星人の武器を無理やり試射させられるシーン。これほど自分の意志と無関係に発射される火器はないだろう。世界の利益のために握らされる兵器という象徴。

もうさすがに死ぬ運命を自覚する直前まで、自分が助かることしか考えない男の徹底的な利己主義者としての描き方は、男がヒーローでもアウトサイダーでもなく、どこまでもグローバリゼーションの一部であることの作者の皮相がこめられているように感じる。義父の仕打ち、妻や世間の誤解、自分の肉体の市場価値に群がる強欲者たちに身を翻し、ギャング団からの武器争奪、MNU襲撃と何度となく「世界」に対し立ち向かうヒーローに成りながら、その根っこにある自己都合により何度も「世界」の側に戻ってしまう男。彼が、瞬時に「無理やり武器を握らせる男」に成るだろうことを多くの人が予見するだろう。

どうせ「世界」に異を唱えるのは自分が世界の中での立場が悪くなった時だけだろ? こんな世界なんてクソだクソ。異星人の容姿・行動の描写のゲロさは「人間とエビと本当に醜悪なのはどっちかい?」という監督の苛立ちなのだろう。

クリストファーの知見と彼の息子の容姿がこの作品を浄化してくれる。これはおそらく「こんな希望のない話はいかん」という映画会社からの横槍ではないだろうか? これがゆえに作品は格式があがってしまう気がする。本作はもっと本来の監督のいびつな世界観に満ち満ちていたほうが自分には好みであった。バジェットやひょっとすると冠欲しさに「世界」と手を組んでしまったのか…そうでないとしても、この親子の設定を映画にとり入れるバランス感覚が、たぎる怒りを抑制してしまうことは確かであり、それは仮に3年後に続編で彼らが戻ってきたとしても「世界」を焼き尽くしてなどくれないだろうことが予見されるのだ。そこが少し残念だ。

(評価:★4)

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