コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 真昼の決闘(1952/米)

無駄がない。
G31

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 決闘の後、町の人がわらわらと集まる中、用意された馬車に乗り込もうとするウィル(ゲイリー・クーパー)とエミイグレース・ケリー)。もうこの町に用はない。用のない町からは、ただ立ち去るのみ。そんなシーン。

   ◇

 いや、俺もクーパーがバッジに手を伸ばしたとき、叩きつけて投げ捨てるのかと思ったんだ。でも彼は、そこに物を置くときのように、すっと手を離しただけだった。足元から5センチほど離れた地面に、バッジは音も無く落っこちた。つまり彼は、怒りを叩きつけて町を後にしたわけじゃない。怒りは感じていたかもしれないけど、それを叩きつけたりせずに町を出た。俺はこのシーンよかったね!

 彼はアメリカなんですよアメリカ。表面的にはびくびく怯えているようにも見えるけど、これは彼の主観に基づく描写なんであってね。こみ上げる恐怖心を抑え、必死に平静を装うの図、なんですよ。客観的には、彼は物凄く強い男ですよ。自分より一回り以上も若く、町の連中からもひとかどの男と認められる副保安官(ロイド・ブリジッス)を、ガチンコ・ファイトで殴り倒しだけじゃありません(映像で見る限り、腰の入ったパンチを何発も食らっていたのはクーパーでしたが)。かつて町中が恐れ慄き、震え脅えた悪党フランク・ミラー(アイアン・マクドナルド)とその一味を、あっという間に片付けてしまいました(妻エミイの助成もありましたが)。

 自分のためでもある、でも、みんなのためにもなる、そういう正義のために闘おうとしてるのに、ドイツもフランスも・・・もとい、どいつもこいつも理屈ばかりこねて加勢しない。だから彼は、死を覚悟し(遺書もしたためた)、花と散る覚悟で(これは日本人的情緒か)、たった一人で闘いに臨む。はたからどう見えるか、ではなく、これはアメリカの悲壮でヒロイックな自画像なんですよ。外国人(フレッド・ジンネマン監督はオーストリアからの移民)がアメリカを内部から描くと、なぜかこうなる。なんでかは分からんけど。

 一方でアメリカは、勝つための努力はいつもしてます。その結果、はたから見ると、強大なパワーを誇る国に見えるわけだけど。当然ながら、勝つことを信じて努力を続けてるわけで、そういう信仰を成立させる虚構、これの大量生産を担うのが、ご存知ハリウッドの映画産業。この作品は、この手の虚構をそぎ落としたところに意義があった。けど、ハリウッドの職業人だってプロ意識は高いわけだから、自分たちのやってきた仕事を否定されたように感じる人もいた。このあたりが、一部から出た反発の背景・・・・じゃないかしら。

   ◇

 映画はここで終わる。でもね(以下略)

80/100(04/10/25見)

追記)映画を楽しむのに、こんなことを考えながら観る必要があるか。まったくないと思うべな。

(評価:★4)

投票

このコメントを気に入った人達 (6 人)けにろん[*] IN4MATION[*] りかちゅ[*] Keita[*] 甘崎庵[*] ダリア[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。