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[コメント] ビューティフル・マインド(2001/米)

「ガラス窓」が語る、ジョン・ナッシュの心象世界
パッチ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







■オーバーレイ手法_________________________

建築家H.H.氏は、ガラス窓に幾何学的な絵を描く。彼は、ガラス窓の上に建物自体や雲、空、樹木などの虚像を映し込む。この虚像を透かして、実像としての建物、雲、空、樹木を見ると、虚と実が交錯し、見るものはその境界を失ってしまう。これを「オーバーレイ手法」と呼ぶ。

■ガラス窓に描いた数式_______________________

ナッシュは、ガラス窓に数式を描いて思考する。窓の外は明るい学生達の世界だ。

彼は、このガラス窓を通して世界を見る。数式を重ねてしか、実像を見られないのだ。フットボール、鳩、ひったくり犯を追う女、すべて虚構の側から実像をオーバーレイする。

■ナッシュと現実社会との関わりを、ガラス窓が表現していく________

・数式の描かれたガラス窓は、思考と現実伝統と新理論を隔てる境界。だから真理を見いだすために、窓をぶち破った。

・真理を見つけた時、部屋の窓に数式はない。窓際で机に向かう彼と、実像としての屋外が融合する。

・授業でナッシュの閉めた窓が開けられる。アリシアは、彼の窓を開く人として登場する。

・結婚式の時、車のリアウインドウに数式を描いて、結婚に虚構の影を暗示する。

・病院は虚像も実像もない白い無の空間。アリシアの見た彼のオフィスは、窓が切り抜きで覆われ、現実社会を拒絶していた。

・薬で現実に引き戻されたナッシュは、ガラス張りの部屋に居ても、リーマンの仮説をガラス上で解こうとしない。

・ナッシュとアリシアは治療室のガラス、強雨に打たれるフロントガラスで隔てられた関係から、手のひらで確かめ合い、信じ合う窓のない関係へと向かう。

・図書館ではガラス窓に数式を描くが、色チョークが使われている。求婚時にガラス玉の中が色の洪水だったように、意識の変化を表す。図書館の窓は内側に人がいる。虚構の空間が内側に開かれたのだ。そして、半分は黒板や紙を使い、虚構と現実の共存が示唆されている。

■実像が透けて見えないガラス窓___________________

映画を観て想う。‥‥現代は、虚構の世界に浸りすぎてはいまいか。例えばゲームの世界は、実像が透けて見えないガラス窓だ。ガラス窓を現実と取り違えぬように、子どもたちに実体験の喜びを知って欲しいと願わずにいられない。

■私たちのガラス窓は?_______________________

映画を観てさらに想う。‥‥私と妻の間には、どんなガラス窓があるのだろうか?私たちも、年をとってから「礼」を言える幸せを分かち合いたいものだと‥‥。

(評価:★4)

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