[コメント] 男はつらいよ 奮闘篇(1971/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
実母が寅を「デキの悪い息子だ。脳がきっと足りてないのだ。」とくさすとき、「そんなことはない、私にはとても素敵な兄だ、そもそも自分の産んだ子ならば頭のデキなど関係ないではないか」と必死で反論するサクラ。
柴又の連中が、「頭が薄い娘」を寅の嫁にするのはどうだろうと口々に反対意見を述べるとき、「そんなことは関係ない、ふたりが好きあっているならそれでよいではないか、そもそもお兄ちゃんのあんな幸福そうな顔を今まで見たことがあったか」と、必死で説得しようとするサクラ。
確かに彼女は、実母ゆえの愛情や焦燥をうまく受けとれていないのかもしれないし、花子の家の事情や花子自身の気持ちのゆれも、まだよく飲み込めていないのかもしれない。
それでも、兄のハガキを見て心配しバタバタとかけだしてゆく彼女の背中に、私は小さな(おせっかいだけど愛おしい)羽を見た気さえしたよ。
こういう妹がいるからこそ、あんちゃんは自分を愛するすべもちゃんと知っていて、ラストのあんな素晴らしい台詞も吐けるのだろうなぁ、と。
てゆーか、こーゆー人がそばにいる寅がうらやましくさえなった。ヒロシ、やったな。
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私的名台詞メモ:聞き取りに自信のない箇所には(?)と記。
■京都からやって来た母を訪ねホテルに行き、彼女が泊まる部屋でトイレを借りて出てきた場面。
寅「へぇー、たいしたもんだぃ、さすがホテルの便所だよ、いまオレ、ションベン流そうと思ってさ、栓ひねったらよ、熱いお湯がダーッと出てきやんの。たいしたもんだいカエルのションベンだ。」
サクラ「お湯?」
寅「あぁ。」
サクラ「お兄ちゃん、どこに?」
寅「どこにったってその部屋の隅にこういう大きい金隠しがあってよ、身体ごとすっぽり入ってションベンできるぐらいになってんだよ。見るか? ちょっと行って見てこい、お前、んでしてこい、んん、オレがね、こうやってやってたらよ、こっちの脇にでっかい鏡があってよ、オレの全身がバッチリ映ってんだろ、恥ずかしくなっちゃって。なぁ、ちょいとしたしろくのガマよ、己の醜い姿に驚きガマはタラリタラリと油汗を流すってやつだよ」
サクラ「お兄ちゃん、」
寅「ええ? あ、それからね、このぐらいのタッパだったかな、なんかこうなって上蓋のついたやつでもってこう開けるとよ、中に水が少し入ってっけど、あれは西洋人の洗面器か何か…」
サクラ「お兄ちゃん、いいかげんに…」
寅「ああ?」
■寅の噂話で盛り上がっていたところへ、彼からのハガキが届く場面。
郵便屋「車さん、速達ですよ。」
ハガキを囲んで読む三人。寅のナレーションがかぶさる。
「お前を殴ったりして悪かったな。あんちゃんは本当に馬鹿な奴だ。こんな馬鹿な役立たずは生きていても仕方がない。花子も元気にしていたし、オレはもう用のない人間だ。オレのことは忘れて、達者に暮らしてくれよな。さよなら。」
おいちゃん「お、おい、ど、どっから出してんだ。」
サクラ「西津軽局。やっぱり花子ちゃんのとこへ行ったんだわ。」
おばちゃん「どういうことなんだろね。まるで遺書みたいじゃないか。」
おいちゃん「お前、ヤな予感が当たったんじゃねぇか。」
おばちゃん「お前、すぐ津軽行った方がいいんじゃないかい。」
おいちゃん「その方がいいぞ。万一ってことがあるから。」
サクラ「とにかく、ヒロシさんに相談してくる!」
とらやを出て表へ駆け出すサクラの様子に、再び寅のナレーションがかぶさる。
「花子も元気にしていたし、オレはもう用のない人間だ。」
■寅が死んでしまったのではないかと心配しつつ、彼を捜しに来たサクラが弘前行きのバスに乗っていると、偶然そのバスに寅が乗り込んで来る場面。
寅(びっくり顔で)「サクラっ!」
サクラ(こちらもびっくり顔で)「何してんのよ、こんなとこで。」
寅「オレか? 温泉入ってたんだよ。な、おばちゃん。」
サクラ(ちょっと怒った顔で)「何言ってんのよ、このハガキは何よ!」
寅(ちょっとびくついた顔で)「あ、ハガキ? つ、着いた? 」
サクラ「着いたわよ」
寅「いや、なんでだろうあんな、気分だったんだなぁ(?)。腹は空くし金はねぇしよ、それにボロっちい宿屋でもって壁の隙間からスースー風吹いちゃうしなぁ。オレ、死んだと思ったの?」
サクラ(笑いそうになるところを隠そうとわざと怒った顔をしてみせ)「冗談じゃないわよ。」
寅「死ぬわけねぇよなぁ。なぁ。まぁ、そんなようなわけでよ、毎日ここにいる婆ちゃんとね、風呂へ入っちゃ背中流しっこしてキャッキャッキャッキャッやってたい。へへっ。無邪気なもんだ、な、ええ? けっこう毛だらけ猫灰だらけお尻のまわりは糞だらけ、な、婆ちゃん。」
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