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[コメント] 娘・妻・母(1960/日)

豪華俳優陣の総花的並置のため各俳優のポテンシャルが十全には発揮されず、またそれゆえ笠智衆の破壊力が際立つといういびつな事態が惹起されてもいるが、日本屈指の母女優三益愛子の母ぶりが映画を支える。原節子の色気が頂点に達したのは一九六〇年であることを『秋日和』とともに証言する映画でもある。
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成瀬が描く「生きること」の厳しさ。当然それは日々の経済の厳しさでもある。成瀬ほど本質的なところで「金」にこだわった、具体的な「金額」の台詞を多く映画に盛り込んだ作家を私は寡聞にして知らないのだが(たとえば、私にはクレージーキャッツの一連の映画なども「なんだかお金の話ばっかりだなあ」といった印象があるのですが、そこでの金はせいぜい劇を転がすための要素やキャラクタの味付けの材料でしかありません)、この『娘・妻・母』が見せる金への執着はその成瀬にあっても群を抜いている。「映画」は必ずしもリアルであることを求めない。むしろリアルであることを拒否することのほうが多いと云ってもよい。それでもなお「映画」にリアルが必要であるとすれば、それはこの種のリアルであろう。『娘・妻・母』の人々は私たちだ。どうして私たちはいつも金のことばかり考えているのだろう!

さて、今さら云うことでもないのだが、加東大介を使いこなすことにかけては成瀬巳喜男が世界ナンバーワンである。

(評価:★3)

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