[コメント] 007 スペクター(2015/米=英)
酒と女と騒動を楽しむためにかりそめにスパイをやっているようなスパイだったのがショーン・コネリーとすれば、ダニエル・クレイグは初代のような不謹慎さを漂わせない、この仕事を天職と受け止め任務にひたすら忠実なリアルなスパイである。素の部分の肌合いの違いが面白い。
ただ、それでもダニエル・クレイグもボンドなのだよね。
国家同士の角逐や相克という過酷な現実を背景にスパイというものは本来孤独で厳しい存在であるがゆえに、イアン・フレミングの描くような不敵でおしゃれなスパイが逆説的な仮構の魅力を強烈に放つ。当代のボンドのようにシリアスに回帰すると原点から離れてしまうという心配が沸くのだが、そうならない。肌あいの違いは肌あいの違いとしてちゃんとボンドになっている不思議さがある。
第1作から変わらないあのテーマ音楽、寸分のすきもないタキシードの着こなし、超絶的な乗り物の運転能力、殴り合いの時に口元に浮かぶほほえみ、こうしたものの総合がボンドを作り出している。俳優の身体特徴を超えたところにこのキャラクターは生きている。先代と似ている、似ていないでボンドらしさが生まれているのではない。
ビンテージ・カーや酒への偏愛ぶり、敵をやっつけたあとのジョーク、これからベッドを共にする女性への自己紹介の口癖など、こうしたほほえましい細部もまた、ボンドを永久に再生産していくのだろう。このスパイを演じたい男性俳優は数多いだろう。「型」の魅力にはまる面白さは俳優が一番よく知っている。歴代のボンドと違っているからこそ、共通部が際立つ。そういう構造になっている。
とにもかくにも、おそろしい収益エンジンだ。
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