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[コメント] ブラック・スワン(2010/米)

強烈、だとは思う。だが、さすがに演出が過剰。その演出に惑わされ、ナタリー・ポートマンはアカデミー主演女優賞を獲ってしまった…。(2011.05.15.)
Keita

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







映画の冒頭、ナタリー・ポートマン演じる主人公・ニナが見る夢から映画が始まるが、この夢の中で描かれたバレエシーンを見たことで、実は期待感を高められました。ほら、バレエのシーンって、普通ならもっと華やかに美しく撮るでしょう? なのに、この映画だとそんな美しいバレエも、ザラついた映像でとにかく暗い。その暗さに、スゴいものがこのあと迫ってくるだとうという予感を感じたのです。

さらに次のシーン、ニナは夢から覚めたあと、アパートで母親と何やら話しながら、ピンクグレープフルーツを食べる。「ピンク!」と母親は言葉で強調するけれど、映像で見るとぜんぜんピンクは光っていないのです。女の子らしく箱入り娘のように育てられていることの象徴的な色がピンクであるということは、ニナの部屋などを見ると後々わかるのだが、それをこのザラついた質感で撮られたピンクグレープフルーツ1個だけで、不吉な予感も含め、母親の過度な束縛を薄らと暗示してしまう。このシーンも、すごく印象に残りました。

映画が始まったばかりのシーンで、うまい形でこれから起こってくる恐怖を予感させられたこともあり、もっとじわじわと恐怖感を植え付けられていくことを期待してしまいました。母親の影響で問題を抱えたピアノ教師をイザベル・ユペールが会心の演技で魅せたミヒャエル・ハネケ監督の『ピアニスト』のような、そんな映画をイメージしていました。だけど結局話が進むうちに、見せ方が過剰なんだよな〜、ということが気になって仕方なくなってしまいました。

ダーレン・アロノフスキー監督は、ドラッグ中毒を描いた『レクイエム・フォー・ドリーム』でも過剰にも思える強烈な見せ方をしていたが(これはこれでインパクト絶大で良かった)、さすがに前例があったと考えるとTOO MUCHかも…。ニナは現実と幻想の間で狂気に取りつかれていくわけだが、その様がホラー映画ようで、視覚的に見て恐怖を感じる部分が多すぎて、効果音でも不必要に脅かされてる感じがしてきてしまった。

そして、その過剰演出が映画を支配してしまったことで、やはりドラマが大味になったように感じました。正直、本作でアカデミー賞主演女優賞に輝いたナタリー・ポートマンの演技に対して、「体当たりの役を頑張って演じましたね!」とは思うが、「巧い!」「スゴい!」「迫真の演技!」といった、演技そのものに対する賛辞がどうも出ては来ないんですよ…。精神的な苦悩が繊細な演技によって表現されていたというより、演出がそう見せていた要素が強いのかも。ただ、演出が行き過ぎると演技を殺すことにもなるわけです。

映画のラスト、血を流したニナが「完璧だったわ…」とつぶやきながら、画面がホワイトアウトしていきます。明確にはしていませんが、この舞台が終わって彼女は死を迎えたのでしょう。白鳥だけでなく、黒鳥でも素晴らしいバレエを披露して拍手喝采を浴びたニナの演技は、まさに命を懸けてのものになっていた、と。肉体的にも精神的にも痛めつけられて、命を捧げてこそ出てくる演技こそ、最高の演技になると例えているよう。

皮肉なことに、ナタリー・ポートマンの演技はそこまでの究極の演技ではないし、なり得るはずもないし、なり得ても困るんですよね…。命を捧げた演技って、『ダークナイト』でジョーカーを演じた故ヒース・レジャーの演技のようなもの、なわけなのだから。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (7 人)ナム太郎[*] ぽんしゅう[*] すやすや[*] 3819695[*] 緑雨[*] サイモン64[*] かるめら[*]

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