[コメント] インビクタス 負けざる者たち(2009/米)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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歩み寄りなんて簡単な事ではない。
そんな事はマンデラ氏にだって当然分かっている。
それでも現状を打破するには、確固たる意志を持ち人々に働きかけないといけない(たとえ綺麗ごとに思われても)。
それでも、大変に難しい。
ラストまでの(徐々に改善されるとはいえ)人々のぬぐいきれないわだかまりの心理状態、そのビミョーすぎる空気感を何気なしにふとした演出でみせる技術は職人技。
「マディバ(or Mr.President)。仰られる事はまあ分かりますが…」
という、人々の心境がひしひしと伝わってくる(観ている自分までもが微妙な気持ちになってしまいました)。
「言葉」を使用しても、「言葉」だけで理解、解決出来る様な事では当然ない。
それでは、何が有効なのか?という事を分かっていたのですね。
また、ワールドカップの国歌斉唱から決勝のロスタイムまでの描かれ方があまりにもあっけない(『ミリオンダラーベイビー』の試合シーンのあっけなさとも違う)のは、ラストと上映時間の事を考えると確信犯的に感じる。
「途中までの試合のシーンなんてほんとはどうでもよかった」
と思えるほどの、最後の最後に出し惜しみの圧倒的なスローモーション映像。
展開はもう分かってるのに、不覚にも涙が流れていました。
この「勝利」は、「強敵を打ちのめした」というような喜悦だけでは、当然ない。
マディバとピナールが意志を通じ合う事が出来た事をきっかけに、ボールを介してのコミュニケーションが成功し、人々を肌の色関係なく結びつける事のできた、「コミュニケーションの勝利」といって良いかもしれない。
『ウォッチメン』のような、第三の新たな(架空の)脅威を作り、その敵を倒すために手を組むようなシニシズムでは全くなく、実にポジティブな良い話です。老翁達の屈強な意志を感じます。
(追記 今作は、近作が主に「コミュニケーションの不全」、そして、それがもたらす悲劇を描いていたのとは、対称的です。もちろんこの映画でも「コミュニケーション不全」については執拗に描かれていますが、『グラントリノ』が、「ウォルト(アメリカ)は変わらなければならない」という事を伝えたように、次作できちんと(した事なんてありえませんが一応の形として)この不全を乗り越える例を描くのは必然的だとも考えられます。しかし次は何を撮るの?)
星が3つなのは、ストーリーのみを取り出すと近作よりも少し物足りない感があるからで、自分が欲張りなだけかもしれない。でもやはりまだまだ映画撮って欲しい!(暗いものも笑)
2010 2/6
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